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【御乳母の大輔の命婦】 ~第二百四十段
日期:2014-06-29 17:13  点击:1063
 御乳母(めのと)の大輔(たいふ)の命婦(みやうぶ)、日向(ひうが)へ下るに、賜はする扇どもの中に、片つかたは日いとうららかにさしたるゐなかの館(たち)など多くして、いま片つかたは京のさるべき所にて、雨いみじう降りたるに、
  あかねさす日に向かひて思ひいでよ
  都は晴れぬながめすらむと
御手にて書かせたまへる、いみじうあはれなり。さる君を見おき奉りてこそえ行くまじけれ。
 
(現代語訳)
 
 中宮定子様の御乳母の大輔の命婦が、日向の国(今の宮崎県)へ下ることとなり、中宮様からお餞別として御下賜になったいくつかの扇の中に、片面には日光がとてもうららかにさした田舎の官舎などが多く描かれ、もう片方の面には京のさるべき所で雨がひどく降っている絵が描かれていた。それに中宮様が、
 < そなたが日向の国に着いたら、東から上る日に向かって思い出してほしい。そなたがいなくなった都では、この絵の雨のように、私が晴れない心で物思いに沈んでいるだろうことを。 >
御自筆でお書きになっているのが、とても心を打ちしみじみとする。そのようなお情け深い風雅な主君をお残し申し上げたまま、とても行けるものではないだろう。
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