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白夜行9-9
日期:2017-01-17 10:25  点击:505
 千都留の持つタンブラーの中で、氷がからからと鳴った。彼女は少し目の下を赤くしていた。
「今日は本当に楽しかったわ。いろいろと話もできたし、おいしいものも食べられたし」千都留は歌うように首を左右にゆっくりと振った。
「僕も最高に楽しかった。こんなにいい気分を味わったのは久しぶりだよ」カウンターに肘を置き、彼女のほうに身体を向けた姿勢で誠はいった。「君のおかげだ。今日は付き合ってくれて本当にありがとう」誰かに聞かれたら赤面しそうな台詞だったが、幸いバーテンダーはそばにはいなかった。
 赤坂にあるホテルのバーに二人はいた。フレンチレストランで食事した後、ここへ来たのだ。
「お礼をいうのは、あたしのほう。何だか、ここ何年間かのもやもやが、いっぺんに消えたみたい」
「何か、もやもやするようなことがあったの?」
「そりゃあ、あたしだっていろいろと悩みはあるもの」そういって千都留はシンガポールスリングを飲んだ。
「僕はね」シーバスリーガルの入ったロックグラスを揺らしながら誠はいった。「君と会えたことを、本当に喜んでいるんだ。神様に感謝したいぐらいだよ」
 聞きようによっては大胆な告白だった。千都留は微笑んだまま、少し目を伏せた。
「君に打ち明けたいことがある」
 彼がいうと、千都留は顔を上げた。その目は少し潤んで見えた。
「三年ほど前、僕は結婚した。だけどじつは結婚式の前日、僕はある重大な決心をして、ある場所に行ったんだ」
 千都留は首を傾げた。その顔からは笑みが消えていた。
「その内容について、君に打ち明けたい」
「はい」
「ただし」と彼はいった。「それは二人きりになれる場所で」
 はっとしたように目を見張った彼女の前に、誠は開いた右手を出した。その手の上にはホテルのキーが載っていた。
 千都留は下を向き、黙りこんだ。心の揺れが、誠には手に取るようにわかった。
「その、ある場所というのは」彼はいった。「パークサイドホテルだ。あの夜君が泊まるはずだった、あのホテルだ」
 再び彼女は顔を上げた。今度はその目は赤く充血していた。
「部屋に、行こう」
 千都留は彼の目を見つめたまま、小さく首を縦に動かした。
 部屋に向かいながら、これでいいんだと誠は自分にいいきかせていた。自分はこれまで間違った道を歩いてきた。今ようやく、正しい道標を見つけたのだ。
 部屋の前で立ち止まると、鍵穴にキーを差し込んだ。
 
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