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けものたちの内緒話
日期:2017-12-14 22:19  点击:356
 むかしむかし、足の悪い旅人が、けわしい山道をびっこをひきながら歩いていました。
 その後ろから、ウマに乗った若者がやってきました。
「もしもし、よろしければ、ぼくのウマに乗りませんか」 
「ありがとう」
 旅人は喜んで、ウマに乗せてもらいました。
「ぼくは、マトウという者です。旅人さん、あなたの名前は?」
「・・・・・・」
 その旅人は、どういうわけか名前を言いませんでした。
 ウマに乗ってしばらく行くと、旅人が道ばたの花を指さして言いました。
「その花を、おってくれませんか。それは人に愛の力を与える、すばらしい花なのです」
「ほう、そうですか。では、おってきましょう。ちょっと、待っていてください」
 マトウはウマから飛び降りて、花をおりに行きました。
 ところがその男はウマにひとむちあてると、マトウを置いてかけ出し行ったのです。
「あっ、待ってくれ!」
 マトウはさけびましたが、男の姿は見えなくなってしまいました。
 
 一人残されたマトウは、こまってしまいました。
 でも元気を出して、寝るところをさがしはじめました。
 そのうちにカミナリがなり、雨がたたきつけるように降ってきました。
 ちょうどその時、近くにほら穴が見つかりました。
 マトウは急いでほら穴の中に入ると、一番奥で寝ころびました。
 マトウがウトウトしていると、何やらゴソゴソと音がします。
「何だろう?」
 入り口の方を見ると、一匹のトラが入ってきました。
 トラは大あくびをすると、両手の上にあごをのせて寝そべります。
 すると今度はオオカミが入ってきて、トラのそばで横になりました。
 また少しすると、今度はキツネがやってきました。
「トラさん、オオカミさん、こんばんは」
 キツネは二匹にあいさつしてから、トラに言いました。
「トラさん、この頃どうしたんですか?
 ちっとも、えものを取ってこないじゃありませんか。
 あたしはあなたの食べ残しをもらうのが、一番の楽しみなのです」
「うん、それにはわけがあるんだ。
 これは、ひみつだがね。
 ほら、あの山に大きな石があるだろう。
 あの下に、宝物がうめてあるんだ。
 そいつを掘り出してなめていれば、ちっとも腹がヘらないんだ」
 マトウはおそるおそる、トラの指さす方を見ました。
 そしてその場所を、覚えておきました。
 次にキツネは、オオカミに言いました。
「オオカミさん、つまらなそうな顔をしているけど。何を考えているの?」
「ああ、谷間の草原に、うまそうなヒツジが三千頭もいるんだ。
 ところがたった一匹だけど、ものすごくほえる番犬がいるもんだから、たまにしかヒツジをぬすみ出す事が出来ないんだ。
 もし番犬が二匹にでもなったら、もうヒツジをぬすみ出せないよ」
「ああ、その番犬なら知ってるわ。
 それに、これもないしょなんだけど。
 あのイヌのなみだとこの木の葉をまぜてこねると、なんでも治る薬が出来るんですよ」
 キツネはそう言って、ほら穴の入り口の大きな木を指さしました。
 マトウはキツネの指さす方を見て、場所を覚えておきました。
 キツネのおしゃべりは、まだ続きます。
「わたしね、この頃すてきな芸を見物しているの。
 林の中の小ネズミが、十二枚の金貨をクルクルと回すのよ。
 とっても、おもしろいわよ」
 そんな話を続けるうちに夜が明けて、やがて三匹のけものたちはほら穴から出て行きました。
 マトウはほっとして穴からはい出ると、まっ先に穴のそばにある大きな木の葉を何枚かつみとりました。
 それから林の中へ行って、小ネズミをさがしました。
 するとキツネが言っていたように、小さなネズミが十二枚の金貨を回して遊んでいました。
 マトウはゆっくりとネズミに近づくと、
「おはよう!」
と、大きな声で言いました。
「チュー!」
 小ネズミはビックリして、あわてて穴の中にもぐってしまいました。
 マトウは残された十二枚の金貨をもらうと、次にヒツジのむれをさがしに行きました。
 谷間の草原に来ると、ヒツジのむれがのんびりと草を食べています。
 そのまん中にヒツジ飼いの小屋があり、大きな番犬が寝そべっていました。
「こんにちは」
 マトウが声をかけると、小屋の中からおじいさんが出てきました。
「おや? 旅のお方か。何かご用ですか?」
「おじいさん、オオカミがヒツジをねらっていますよ。番犬をふやしなさい」
「とんでもない! そんな金はありません。ついこの間も、この番犬の子イヌを人に売ってしまったくらいですよ」
「なら、その子イヌを買いもどしなさい。ほら、お金はわたしが出しますから」
 マトウはさっきの金貨を、おじいさんに渡しました。
 喜んだおじいさんは、さっそくそのお金で子イヌを買いもどしに行きました。
 マトウはそのあいだ、ヒツジの番をしながら待っていました。
 やがておじいさんが、子イヌを連れて帰ってきました。
 すると今までねそべっていた親イヌが、突然飛び起きるとおじいさんの方へ走っていきました。
 おじいさんが連れて帰ってきた子イヌも、こちらにむかって走って行きます。
 二匹はうれしそうに、体をこすりあわせました。
「よし、よし。今日からまた、いっしょに暮らせるからな」
 おじいさんは目になみだをためて、子イヌの頭をなでてやりました。
 親イヌの目にも、うれしなみだが光っています。
 マトウは親イヌの頭をなでながら、そのなみだを木の葉の上に受け止めました。
 マトウはさっそくイヌのなみだと木の葉で薬をつくると、また旅に出ました。
 
 それから数日後、マトウは大きな町につきました。
 町のまん中にお城があって、そのまわりに人が集まっています。
「もし、何かあるんですか?」
 マトウがたずねると、町の人たちが答えました。
「はい、実はお姫さまが、ご病気なんですよ」
「それも変な病気で、治せる医者がいないそうです」
「王さまは、お姫さまの病気を治した者に、のぞみ通りのほうびをくださるそうですよ」
 それを聞いたマトウは、にっこり笑いました。
「よし、ぼくがお姫さまを治してさしあげよう」
 マトウはお城の中へ入って行くと、お姫さまの病気を治せると家来に言いました。
 それを聞いた王さまは、マトウの言葉を信じようとはしません。
「国中の医者でも治せない姫の病気を、旅の男などに治せるものか! どうせ、ほうびがほしいだけだろう!」
 マトウは家来に追い返されそうになりましたが、王さまにも聞こえる大きな声できっぱりと言いました。
「もし治せなかったら、わたしを死刑にしてもかまいません!」
 それでようやく、マトウはお姫さまの部屋に通されたのです。
 病気のお姫さまは頭がぼんやりしていて、マトウが入ってきても気がつかない様子です。
 マトウはお姫さまに近寄ると、あの薬をお姫さまの口の中に押し込みました。
 するとそのとたん、
「あっ!」
と、言って、お姫さまはたちまち正気にもどったのです。
「あなたは、どなたですか?」
 部屋の外から様子を見ていた王さまは、大喜びでかけよってきました。
 そしてマトウの手をとって、言いました。
「よくぞ、姫を治してくれた! 礼として、お前に姫をあたえよう。これからはこの国で、わたしたちと一緒に暮らしておくれ」
「はい、喜んで」
 すぐにマトウとお姫さまの結婚式が行われ、マトウは新しいお城を作ってもらうことになりました。
「マトウよ、どこでも好きなところに城をたてるがよい」
 そこでマトウは、あのトラが話していた大石の上にお城をたてようと思いました。
 
 いよいよ、大石の上で工事がはじまりました。
 国中からたくさんの人夫が集められ、その中に、いつかマトウのウマをうばってにげた男もまじっていました。
 けれども男の方はマトウがすっかり立派になっているので、少しも気がつきません。
 マトウはこの男を呼んで、ごちそうやお金をあたえました。
 
 ある日、男がマトウにたずねました。
「だんなさま。どうしてわたしにだけ、こんなによくしてくださるんですか?」
 するとマトウが、自分の顔を指さして言いました。
「ぼくの顔を、よく見てごらん。いつかお前にウマをとられて、ひどいめにあったマトウだよ」
「へっ? ・・・・・・あっ!」
 男はやっと思い出して、顔がまっ青になりました。
 マトウに、仕返しをされると思ったからです。
 しかしマトウは、にっこり笑って言いました。
「そんなに、怖がらなくてもいいよ。あの時は腹が立ったけど、でもそのおかげでぼくは、こんなに立派になれたんだ」
 そしてマトウは、男にこれまでの出来事を話して聞かせました。
 
 さて、その晩の事です。
 男は、マトウが教えてくれたほら穴に行きました。
 自分もマトウのように、金もうけをしようと思ったのです。
 夜がふけると、トラとオオカミとキツネがやってきました。
 キツネが、トラに言いました。
「おや、トラのだんなさん。近頃、おやせになりましたね」
「ああ、あの宝のうめてある石の上にお城がたつんで、近よれなくなったんだ」
 次にキツネは、オオカミに言いました。
「オオカミさん。あんたもすっかりやせて、元気がなくなりましたねえ」 
「ああ、あのヒツジのむれには、もう手が出せなくなってしまったんだ。なにしろ番犬の親子が、ヒツジをしっかりと守っているからなあ」
「そうですか。実はわたしも、楽しみがなくなっちゃったのよ。小ネズミが金貨をなくして、芸をしてくれなくなったの」
「うーん。どうしてだろう。この事は、ここだけのひみつだったのに」
「おかしいわね。誰か聞いていたのかしら?」 
「そうだ! こうなったのは、誰かがわれわれのひみつを聞いていたに違いない!」 
「そういえば、さっきから人間のにおいがするぞ。・・・この奥の方だ!」
「よし、そいつをつかまえよう!」
 三匹はいっせいに、穴の奥へ行きました。
 そして男を見つけると、すぐにかみころしてしまいました。
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