「ヤバイ、パクられるぞ」
「通報か?」
「逃げろ」
で、俺は、すでに走る体勢になっていたので、そのままスタートを切った。
後ろでは、まだ、何かみんなが口々に叫んでいたけれど、よくわからなかった。
裸足で全裸で走るというのは、したことが(たぶん)なく、走りにくい。
けれどね、なんていうのか、俺の運動を行うための機能にスイッチがはいってしまったみたいなのよ。俺のからだが全力で飛ぶように移動する。
爆音が追いかけてきているのが、わかった。
パトカーしか見えなかったと思うのだけれど、警察は白バイまで動員していたんだろうか。
百メートルほど先に水が光るのが見えた。海岸の砂浜に、川が流れ込んでいる。
チャンスだ。
俺は、そこまでにスピードを最高に上げる。助走のタイミングをはかり、最後の一歩は少し幅を広く。力をこめて踏み切る。
ジャンプ。
六メートルほどの川を飛び越え、着地。成功だ。
砂浜にすわっている俺の隣にひらりと飛び降りてきたのは、警察の白バイではなくオフロード用の大型バイクだった。
「さすがに速いわね」
ヘルメットを取って俺に話しかけたのも、警察官ではなくて、眉子|叔母《おば》さんだった。