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NR(ノーリターン)54
日期:2018-09-30 08:53  点击:298
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 郊外へと向かう電車に乗った。
 今朝、眉子|叔母《おば》さんは、いつもと同じ。何もなかったかのように、振る舞ってくれていたのだろうか、努力して。
 それとも、スペインでなら、あのくらいは挨拶《あいさつ》がわりとかで、どうってことないのか。
 そんなことは、ないわねえ。
 あのあと、俺、夕飯食えなくなって、部屋にひきこもっちゃったもん。態度がおかしいって、わかる。
 それでね、叔母さんがふつうにしてるんで、俺は、かえって説明ができなくなってしまったの。ベッドの中で、いろいろ考えてから起きたんだけど。
 何についての説明かっていうと、その、前の日にKSI(いったい、ケンさん、何をしてるんだ?)とかいう団体につかまったってこと。たぶん、そこで催眠術らしきものをかけられたんで、あんなこと(どんなこと?)をしそうになった。
 いつもの朝のように、叔母さんは笑顔でコーヒーをいれてくれた。当たり障りのない会話。
 いちばん心配していた頭の中の声は、その後、再び聞こえてくることはなかった。
 でもね、変。
 叔母さんのことが、まぶしくって、見ていられない。パン食ってても、なんか、胸がドキドキしちゃう。なんなんだろね、声はしないんだから、たぶん催眠術は解けてるはずなのに。
 それだけじゃなくてね、そばにいなくてもさ、同じアパートメントの中に眉子叔母さんがいるってわかってるだけで、意識しちゃう。
 落ち着かないの。まったく、中学生の女の子じゃないんだぜ、俺は。
 結局、KSIにつかまって、俺の脳は、また、いかれちゃったのかね。
 それで診察を受けに行くことにしたの。
 ドクターは、一応、脳の専門家なんだろうから、催眠術のことだって、少しは知ってるはずだ。まあ、叔母さんが言うように、あまり、あてにならないやつではあるんだけど。
 昨日とは全然違って、やな天気。
 朝から小雨が降り続いてた。ふつうなら、そうは外出したい気分の日じゃない。
 でも、俺が出かけることを、眉子叔母さんはおかしいとは思わないみたいだった。
「あなたがどんどんひとりで行動できるようになるのって、成長よね。またマフィアに拘束されて、危険な目にあってほしくはないけれど」
 それは、絶対、だいじょうぶです。今度の相手は、マフィアじゃなくって、KSIですから。
 エレベーターに乗ってから、「成長」ってのは間違ってるって気づいた。こどもじゃないんだ。俺の場合は、「回復」って言ってほしい。
 もうひとつ、気づいたのは、眉子叔母さんのほうでも、俺が外出するんでほっとしたんだろうってこと。やっぱ、昨日の夜があるもんなあ。
 電車の二十分はあっというまに過ぎて、目的の駅に着いた。昨日、タクシーで乗り付けた、あの駅ね。
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