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日本史の叛逆者62
日期:2019-05-24 23:07  点击:260
「古人大兄様を——」
 漢殿は、それでいいのかという目で、鎌子を見つめた。
 鎌子はひるみを覚えたが、すぐに気を取り直して、
「左様でございます」
 と、頭を下げた。
「殺せ、と言うのか?」
 漢殿は念を押した。
「いえ、罰するのでございます」
「罰する? 古人大兄様にどんな罪が」
 何もない——と口に出かかったが、鎌子はそうは言わなかった。
「叛逆の罪でございます」
「証拠はあるのか」
「——間もなく、吉備笠臣垂《きびのかさおみのたる》という者が、訴人致します」
「ほう、千里眼だな、先のことがわかるとは」
 漢殿は皮肉をこめて言った。
「いささか」
「だが、国に対しての叛逆ということになれば、一族皆殺しだ」
「申される通りでございます」
「それを、このわたしにやれ、と言うのか」
「皇子様だけでよいのです。あとは、しかるべき者が始末をつけまする」
「しかるべき者か——」
 漢殿は嘆息した。
 古人大兄一家の悲惨な未来に、同情を禁じ得なかったのである。
 鎌子は依頼が終ると帰って行った。
 漢殿は戸棚から、白瑠璃《はくるり》製の瓶を取り出した。
 瓶の中には紫色の酒が入っている。
「虫麻呂」
 白瑠璃の杯の中に酒を注ぎながら、漢殿はつぶやくように言った。
「はい」
 打てば響くように、床下から声があった。
「聞いておっただろうな」
「はい」
「ただちに吉野へ参る。そちは先行して、古人大兄様の身辺を探れ、邪魔する者がいないかどうか」
「かしこまりました」
「では、ただちに行け」
 何かためらっているような気配がした。
 珍しいことである。行けと言えば、すぐに火の中にでも飛び込むのが虫麻呂である。
「どうした」
「あの、御主人様、あの——」
「なんだ、早く言え」
「はい。古人大兄様はわたくしが——」
「ならぬ」
 漢殿は言った。
「古人大兄様はわたしの手で討つ。それが兄君の命令だ。逆らうことは許されぬ」
「——」
「わかったら行け、わたしもすぐに後を追う」
「承知致しました」
 虫麻呂は去った。
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08/28 17:48
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