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日本史の叛逆者77
日期:2019-05-24 23:14  点击:299
「どうかなさいましたか?」
 妻の声に漢殿《あやどの》はふと我に返った。
 海の見える丘の上の邸宅であった。
 このところは血腥い仕事もなく、漢殿は平穏な日々を送っている。
 しかし、皇太子の「実弟」でありながら、公職には一切就いていなかった。
 本当は年上の「弟」を、中大兄が煙たがっていることは、まちがいない。
「いや、帝が新羅の使いを追い返したということをな——」
 漢殿は椅子に座ったまま、妻の額田《ぬかた》の方をかえりみて言った。
「考えていたのだ」
「新羅はお嫌いですか?」
 額田は聞いた。
「いや、そうともいえぬ」
 そう答えて漢殿は苦笑し、
「兄君はお嫌いだがな」
 と、付け加えた。
 額田は隣に座った。
「なぜでしょう。やはり、唐の風に変えた国だからでしょうか」
「それもある」
 漢殿はうなずいた。
「——だが、それだけではない」
「——?」
 額田はけげんな顔をした。
「兄君は、そもそも新羅が嫌いなのだ」
「なぜでございましょう」
「——」
 漢殿はすぐには答えず、窓の外を見た。
 広い海がどこまでも続いている。
「言っておかねばな」
 そう言い、漢殿は妻の方へ視線を戻した。
「なぜ、わたしが兄君の弟でありながら、皇族としての待遇を受けられぬと思う」
「——」
「うすうす察しはついておろう。それはな、わが父が異国《とつくに》の人だからだ。それゆえ、母はこの国の天津日継《あまつひつぎ》でありながら、わたしはその一族に迎えられることもない」
「あなた様のお父上は何とおっしゃるのですか?」
 額田は夫を正視して言った。
「知らぬ」
 漢殿は首を振った。
「御存じない?」
「うむ、知らぬのだ。母上は御名も教えて下さらぬ。ただ、人伝てに聞いたところでは、新羅の国の王族らしい」
「王族?」
「そうだ。この国に使いに来て、母上と恋に落ちられた。それで生まれたのが、このわたしというわけだ」
 額田は黙って聞いていた。
 漢殿の方が拍子抜けしたように、
「驚かぬのか」
「いいえ」
「なぜ?」
「何かあるとは思っていましたから」
 額田はそう言って、
「でも、あなた様はあなた様、誰の御子であろうと、どうでもいいのです」
 と、付け加えた。
「そうか」
 漢殿の顔から笑みがこぼれた。
 
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