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日本史の叛逆者82
日期:2019-05-24 23:16  点击:295
 「兄様」
 間人が人目もはばからず、中大兄にしっかりと抱きついた。
「待て、ここでは」
 さすがに、中大兄がたしなめた。
 周囲には、漢殿に妻の額田、それに鎌子も駆けつけている。
「かまいませぬ」
 間人はかえって強く抱きついた。
「——こうなって嬉しゅうございます」
 ささやく声が耳に届いた。
 中大兄は驚いて、
「なぜだ。皇后の地位を失うことになるのだぞ」
「かまいませぬ」
 間人は繰り返した。
 うるんだ瞳には、喜色すら浮かんでいる。
 中大兄は、その間人を押しのけるようにして、身の自由を取り戻した。
 そして物問いたげに鎌子を見た。
「御無事で何よりでござりまする」
 鎌子は頭を下げた。
「どうする」
 中大兄は血走った目で言った。
「こうなったら、非常の手段をとるしかございません」
 鎌子は重々しい口調で言った。
「まさか——」
「いや、それは違いまする」
 中大兄が何を言おうとしたか、鎌子はなぜそれをとどめたか、誰の目にもわかった。
 帝をこの際、この世から消す——そのことである。
「では、どうする?」
「都を捨てましょう」
「捨てる? 逃げるのか?」
 心外そうに中大兄が言った。
「いいえ」
 鎌子は首を振って言った。
「都を戻すのでございます。飛鳥の古京へ」
「何だと」
 中大兄は目をむいた。
 漢殿以下、その場にいた者全員が驚いた。
 なんという大胆な策であろう。
「しかし、都を遷すには、帝の勅《みことのり》がいるのでは——」
「その帝は、皇太子様を憎んでおられます」
「——」
「それゆえ、仕方がありませぬな。母君さえこちらの味方について下されば、難しいことではないと存じます」
「帝はどうする?」
 その問いに、鎌子は少しうつむいて、しかしはっきりした声で言った。
「お連れ申し上げるわけには参りますまい。お嫌でございましょうし、来られては、この策が生きませぬ」
「で、では、帝を置き去りに——」
「はい」
「鎌子、それでよいのか?」
 中大兄は思わず言った。
「よろしゅうございます。あとは皇太子様が心を強くお持ちになることでございます」
「——」
「母君を説いて、左大臣以下百官すべてに呼びかけるのでございます」
「ついて来てくれるであろうか?」
「そこが賭けでございます。しかし、勝算ある賭けと存じます」
 中大兄はまだ混乱していた。
 帝を置き去りにして、都を遷すなど、この国始まって以来のことである。
 本当にうまくいくのだろうか。
「——そちはどう思う」
 中大兄は漢殿にすら意見を求めた。
「はい、死中に活を求める良策かと存じます」
「しかとそう思うか?」
「はい、このまま座して事の推移を待つよりは、はるかに良いと思います」
 中大兄は間人も見た。
 間人は黙ってうなずいた。
「よし、ならば、皆も一蓮托生《いちれんたくしよう》だぞ」
 中大兄は叫んだ。
(そのようなことを仰せにならずとも、黙ってついて来いとお命じになればよいのに)
 鎌子は心の中で深い溜息をついた。
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