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日本史の叛逆者89
日期:2019-05-24 23:18  点击:228
(あれは父だったのか)
 漢殿は野原で一人、槍の稽古をしていた。
 あの笠の武人と立ち合うことによって、おのが技の隙を教えられたのである。
 これまで自分の技に対抗しうる敵というものに、遭遇したことはなかった。
 それが知らず知らずのうちに自分の技を衰えさせていたのだ。
(未熟者め)
 一合も打ち合わずに、槍を叩き落とされるというのは大きな屈辱である。
 しかし、その屈辱が、漢殿の精進を支えていた。
 ふと人の気配がした。
「何者だ?」
 誰何すると、木陰から鎌子《かまこ》が現われた。
「そなたか」
 漢殿は槍をおろし、汗を拭いた。
「いつもながらお見事な技でございます」
「何が見事なものか」
 漢殿は吐き捨てた。
 そして、ふと気がつくと、
「そなた、地獄耳という噂だな」
「いえ、とんでもございませぬ」
「嘘を申せ。宮中のことなら知らぬことはないと聞いたぞ」
「ははは、口さがない者の噂でございます」
 鎌子は一笑に付した。
「わが父のことを知らぬか?」
 漢殿は単刀直入に聞いた。
 鎌子の耳がぴくりと動いた。
「——」
「どうした、知らぬのか」
「困りましたな」
「なぜ、困る?」
「噂ならば知っておりまする。しかし、本当かどうかは」
「かまわぬ、それを聞かせてくれ」
「それはできませぬ」
「なぜだ」
 漢殿は気色ばんだ。
 鎌子は落ちついていた。
「これは前帝《さきのみかど》の御名誉にもかかわること。滅多に口にすべきものではございません」
「——」
 漢殿は鎌子を無言のまま、にらみつけた。
 鎌子は破顔して、
「海の向うの国の話でございます」
「——?」
 突然何を言い出すのか、漢殿は不審げな顔をした。
「そこに別の国から、人質として王の一族の貴公子がやって参りました。その貴公子は、宮廷の皇女と恋に落ちたのでございます」
「——それは父上と母上のことか?」
 うめくように問う漢殿に対し、鎌子は首を振った。
「とは申しません。申しませんが——この話まだお聞きになりますか?」
「聞こう」
「お二人の間には月満ちて、一人の男の子が生まれました。しかし、これはお二人の将来に暗雲をもたらしたのでございます」
「——」
「もしも、その御子が、その国の王家の一員とされるなら、その王家に異国《とつくに》の血が混じることになりまする」
「混じってもよいではないか」
「それは、なりませぬ。しかし、その異国というのが、皇女様の国とは極めて仲が悪かったのでございます」
「——」
「お二人は夫婦となることはできませぬ。御子の母は、その子を手放させられ、その代りに王族としての地位を保たれました。御子の父は故国には戻らず、かといってこの国に仕えることもならず、世を捨てられたのでございます」
「なぜだ。国へ帰ればよいではないか」
「確かに。されど、あなた様の、いえ、御子の父上は、そうはなさらなかったのでございます。それは、おそらく——」
「何だ?」
「いや、それは、憶測でございますが——」
「かまわぬ、申してみよ」
「愛《いと》しさゆえに、この国を離れがたかったのではございますまいか」
 漢殿は長年の疑問が、霧が晴れていくように消えていったと感じた。
「その男、いやわが父の名は何というのだ?」
 たまらずに漢殿は、それを聞いた。
「存じませぬ」
「知らぬはずがあるか」
「もし、存じておりましても、あくまで噂ゆえ答えられませぬ。御自身でお聞きになるのが、よろしかろうと存じます」
「知っているのか、わが父の居場所を」
「存じませぬ」
「嘘を申すな」
「これは嘘ではございません」
 鎌子は頭を下げて、
「あの御方は風のように神出鬼没でございます。遁甲術《とんこうじゆつ》の名手でございますからな」
 遁甲術——それは忍びの技である。
 漢殿はそれを虫麻呂に習った。
 虫麻呂には誰が教えたのか。
(父上に違いない)
 漢殿は確信した。
 鎌子はそのまま立っていた。
 漢殿は気付いた。
 鎌子は何か別の用事があって来たのに違いない。
 漢殿は、それをたずねた。
「凶々《まがまが》しき知らせにございます。しかし——」
 と、鎌子は表情を変えて、
「あなた様には、吉報と申すべきかもしれませぬ」
「一体、何事だ?」
 漢殿は、けげんな顔をした。
 鎌子は淡々とした口調で言った。
「昨日、帝が難波の宮にて崩御なさいました」
 漢殿は驚いて鎌子を見つめた。
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