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日本史の叛逆者96
日期:2019-05-24 23:22  点击:290
 大海人は道行らに守られて、館に帰ることができた。
 ただならぬ気配に、虫麻呂があわててすっ飛んできた。
「いかがなされました。あっ、その傷は?」
 虫麻呂は大海人の手を見て、顔色を変えた。
「大事ない、かすり傷だ」
 大海人は言い、道行の方を振り返って、
「それより引き合わせておこう。新羅の道行殿だ」
「新羅の——」
 虫麻呂は馬上の男を、油断なく見つめた。
「これは、わしの子飼いの者でな。目と耳と思っていただいてよい。虫麻呂だ」
 大海人の言葉に、虫麻呂も頭を下げて、
「虫麻呂でござる」
「道行にござる」
 道行は、わざわざ馬から降りて、あいさつした。配下の者もそれにならった。
「では、本日はこれにておいとま致しまする」
 道行は頭を下げた。
「うむ、重ねて礼を言う。きょうはそなたのおかげで命を拾った」
 大海人も馬から降りた。
 虫麻呂が驚いて、大海人の顔を物問いたげに見た。
 大海人はそれにはかまわず道行に、
「ところで、そなたの頭《かしら》はどこにいる」
「はあ?」
「頭だ。そなたの上に立つ者がおろう」
「それは海の向うの——」
「いや、この国にもいるはずだ。たとえば、笠の好きな御方とかな」
「そのような御方は存じませぬな」
 道行は顔色一つ変えずに答えた。
 大海人は笑みを浮かべて、
「よかろう、きょうはそういうことにしておこう」
「では、これにておいとま致します」
 道行たちは去った。
 その姿が辻を曲って消えると、虫麻呂はただちに言った。
「皇子様、一体どうなされたのです」
「それより、今の一行のあとを尾《つ》けろ」
 大海人は別人のように厳しい表情で言った。
「道行殿をでございますか」
「そうだ。あの者の本拠をつきとめよ。そこにはおそらく、頭がいるはず。その者の正体をさぐれ」
「かしこまりました」
 虫麻呂は走り去った。
 大海人は館の中に入った。
 手に傷を負っている。
 それを見て、妻の額田《ぬかた》が悲鳴を上げた。
「大事ない」
 大海人は再び言い、居室にそのまま入った。
 額田は後を追ってきた。
「大事ないと言ったではないか。傷は既に新羅の——医師《くすし》が手当てをしてくれた」
 医師と言ったのは安心させるためで、本当は手当てをしてくれたのは道行だった。
 ただ、それは唐《から》渡りの金瘡《きんそう》の薬を使った見事なもので、朝廷に仕える医師に頼んだとしても、おそらくそれ以上の手当てはできなかったろう。
 そもそも、仏僧は医師を兼ねることが多いし、朝廷にはべる医師も、ほとんどが海の向うから招かれた人々である。
「そんなことではありません」
 額田は言った。
「傷も気がかりですが、そもそも、どうして傷を負われたのか、そのことを案じているのです」
「ならば、そんなきつい顔をするな」
 大海人は笑ってたしなめた。
「きつい顔にもなります。あなた,一体どうなさったのです?」
「一人で遠乗りに出たところを襲われた、数人の男にな。——なんとか切り抜けたが、手傷を負った。それだけのことだ」
 大海人は出来るだけおだやかに言った。
 額田は一転して蒼白になり、
「まさか——」
 と、思わず言いかけて言葉を呑み込んだ。
「まさか、何だ?」
 大海人はけげんな顔をした。
「いえ、よろしいのです」
 額田はあわてて首を振った。
「なんだ、気になるではないか。まさか、どうしたと申すのじゃ」
「——」
「かまわぬ、申せ」
「皇太子様が——」
 額田は消え入りそうな声で、それだけ言った。
「皇太子様が?」
 その名を口にして、大海人もようやく気が付いた。
 額田は、中大兄が大海人を狙わせたのではないか、と疑っているのだ。
「それはあるまい」
 大海人は自信をもって言った。
「どうして言い切れます」
 額田はまだ疑いの目を向けている。
「それは——」
 言いかけて大海人は、その可能性も少なくないことに、あらためて気が付いた。
(「兄」はわたしを憎んでいる。皇統に列することに最後まで反対したのも、あの「兄」だ)
 腹立ちまぎれに自分を狙う。考えられないことではない。
(いや、あれは百済の手の者だ。現に、道行もそう言っていた)
 大海人は心の中で打ち消しながらも、こみあげてくる不安をどうすることもできなかった。
 
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