行业分类
日本史の叛逆者118
日期:2019-05-24 23:31  点击:255
 間人太后《はしひとたいこう》が突然この世を去ったのは、年が明けて春のことだった。
 呆気《あつけ》ない死だ。
「死んだのか——」
 中大兄は実のところ、彼女の存在を忘れていた。
「はい、朝おめざめの後、胸が苦しいと仰せられ、水をお取り寄せになったのですが、そのまま呆気なく」
 女官の樟葉《くずは》は涙ながらに言上した。
「そうか」
 中大兄は別に涙が出て来なかった。
 樟葉は、中大兄がそれ以上何も言わないので、不審な顔をした。
「——あの」
「何だ。もう帰ってよいぞ」
「——皇太子様は、お出ましにならないのでございますか」
「多忙なのだ」
 中大兄は言った。
 実際そうであった。
 唐との戦《いくさ》に備えて、やることは山積していた。
 内政の充実、軍備の拡張、唐との折衝——私事に時間を割いている暇はない。
 樟葉は怒りの色を浮かべた。
「皇太子様、太后《おおきさき》様がお隠れになったのでございますよ」
 それがどうした、という眼で中大兄は樟葉を見た。
「お別れなさるのが作法ではございませぬか」
「葬《とむら》いはする。立派な陵《みささぎ》も造ってやる」
 中大兄は面倒臭そうに言った。
 そんなことではございません。喉元まで出かかった言葉を、樟葉はかろうじて呑みこんだ。
(なんと情の無い御方であろう)
 中大兄はそのまま席を立ち、奥に入った。
(おかわいそうな、太后様)
 樟葉は流れる涙をぬぐおうともせず、その場を去った。
 戻ってみると、大海人が館にいた。
「まあ、あなた様は」
 樟葉は目をみはった。
「このたびは突然のことで、お悔み申し上げる」
 大海人は頭を下げた。
「いつ、筑紫《つくし》からお戻りに」
「つい、先程な。館に帰ってすぐに、知らせを聞いた」
 樟葉は、大海人の姿が旅塵にまみれているのに、気が付いた。
 旅装も解かずにここへ来てくれたのだ——樟葉は、中大兄のところでとは違う涙を流した。
「では、これで失礼する」
 大海人は言った。
 死者と対面するのは近親者に限られる。
 大海人も異腹の兄だから、会う資格があるが、相手が皇后の位に昇った女性でもあり、遠慮したのである。
 樟葉も強いて対面を勧めなかった。
 大海人は辞去した。
 樟葉は死者の永眠する部屋に戻った。
 太后は、なにかほっとしたような表情をしていた。
 それを見て樟葉は、また涙がこぼれてならなかった。
小语种学习网  |  本站导航  |  英语学习  |  网页版
08/30 00:23
首页 刷新 顶部