遠野物語13
日期:2019-08-25 10:07 点击:254
一三 この老人は数十年の間山の中に独りにて住みし人なり。よき家柄なれど、若き頃財産を傾け失ひてより、世の中に思ひを絶ち、峠の上に小屋を掛け、甘酒を往来の人に売りて活計とす。駄賃の徒はこの翁を父親のやうに思ひて、親しみたり。少しく収入の余あれば、町に下り来て酒を飲む。赤毛布にて作りたる半《はん》纏《てん》を著て、赤き頭巾をかぶり、酔へば、町の中を躍りて帰るに巡査もとがめず。いよいよ老衰して後、旧里に帰りあはれなる暮らしをなせり。子供はすべて北海道へ行き翁ただ一人なり。


