うおっと、そいつぁオイラにゃ合点がいかねぇが、私が家元の糸井重里である。
「てってってっ、てぇへんだあぁ。家元の親分、てぇへんでござんす」
何が大変なんでぇ、番頭の勝吉。この暮の気ぜわしい時に、おめぇの「てぇへんだぁ」を聞いてると、締切に間に合わなかったような気分になっちまうじゃねぇか。まったく……。
「そ、それが、ほんとにてぇへんなんで。家元の親分も知っての通り、雑誌界にゃ年末進行てぇ、古いしきたりがあるんでございますんでござんす。そいつが、この萬流の前に立ちはだかっておりやして、押しても引いてもビクともしやせんでございますでござんす」
そうか、年末進行か。どれどれ、ちょっと様子を見てみよう。
ガラガラ(戸を開ける音)
おっとーい! いたいた。いやがった。
「ワッハッハ。わしが年末進行だぞ。どうだ怖いだろう。まいったか」
「やいやい、怖いじゃねぇかでございます」
番頭、ひるむな。技をつかえ。
「そ、そうでございます。ええい、御歳暮だぞ」
「どっこい、御歳暮返しだ!」
うむむ、手強い。では、書きとばしだ! ビヤーッ。
「どうだ、うちの家元にはこの手があるんだぞ。畏れいったか、年末進行めッ」
しかしそれにしても、これだけ極端な楽屋オチでスタートすると、収めるのにかえって苦労をするな。
「なにせ、年末進行のやつには、バックに年の瀬がついておりますからねでございます」
いやいや、負けてはおられぬ。こちらには、塾生から寄せられた数千幾余の、来年の年賀状がある。
「うまいッ。うまくお稽古に結びつけましたね。さすがは日本一いいカゲンな司会者と評判をとる家元、するどいッ」
というわけで、よくわからんうちに稽古に突入することになったのである。