山藤章二 南さんはハガキ出したことあるの?
南伸坊 いや、電話でアレしたらボツんなっちゃって。
山下洋輔 しっかし、萬流っていまだに分かんねぇなぁ。
川上宗薫 分からんねぇ。
山下 川柳じゃないし、洒落じゃいかんのでしょう? といって山頭火というわけにはいかないんだろうし……。
家元 |新玉《あらたま》ってみなさん、ようこそ。私が家元の糸井重里です。
なにをゴチャゴチャゆうとるのですか。
山藤 それにしても、家元は駄洒落に冷たいですねえ。
家元 いや、駄洒落に冷たいのはね、単に多いからなのです。
山藤 じゃ、駄洒落でいくのは賢明な策じゃないですね。
南 他の塾生の考えそうなことを考えてちゃダメなわけだ。「銭湯—番台—見える」っていうのはダメなのね。
家元 そうそう。
川上 となると、ひねらなきゃいけないんだろうね。
家元 ひねればいいとも限らない。
山藤 ふーむ、そうか、要するに家元の生理現象なんだ。そのときの生理に合えばいい、それだけなんだ。
家元 さすが似顔絵塾の塾長だけあってスルドイ指摘ですね。ま、これが家元制度の奥深いところです。
南 規則性はないんですか、その生理ってのに。
家元 その生理は、見えざる力によって動かされておる。
川上 おれ、このごろ昔の悪い夢を見ているようでね。若いころ、懸賞小説に応募するたびに一次選考に落ちたんだ。あれに戻ったような気がしてさ。今度は(竹)ぐらいはいけそうだゾ、なんてまわりのやつに話しちゃったあと落ちると、特にね……。
山下 山藤さんは毎回だしてんですか。
山藤 いや。まだ三回、で、三打席二安打。
家元 山藤さんはうまいからね、わざと厳しくしてます。
川上 おれなんかヘタだから、お情けで入れてもらったと思ってるんだ。
家元「一夜を共にする」のときの『朝メシもっていったよね』はなかなかの出来でしたよ。
山下 ぼくの場合は、笑いで攻めたの。「ゲートボール」で『ゲーテベーレと呼んでけれい!』っていう路線なら糸井さんは絶対笑うと思っていた。
川上(隣りの美女に)あなたも出したことあんの?
宮坂久美子 いえ、あのぉ……。
家元 あッ、川上先生、あんまり肩を寄せあわないで下さい。彼女は文化放送の花なのです。手折ってはなりませぬ。
山藤 座敷に入ってきた時から、その席の配置、気になっていたんだ。
川上 君のバッジは「門前」だねえ。
宮坂 ええ、さっき番頭さんがこっそりと……。
南 あッ、ずるい。僕なんか何もないんだから……。
家元 なにしろ階級制度の厳しい組織ですからね。
山藤 そうです、私なんか緑色の「弟子」バッジ。宗薫さんは赤い「見習」バッジ。だから私よりズーッと下座でしょう。
山下 ぼくは「仁王」だから外に立ってなきゃいけないの?
南 ぼくはどうすればいいの?
家元 ほら、よく「仁王」の前にゴザ敷いて座っているじゃない。
南 乞食だよ、それじゃ。ひどいや!
川上(宮坂嬢に肩を寄せて)あなた大学生なんだって?
宮坂 ええ、学習院の二年生なんです。
川上 真面目な話、おれ学習院の女子大生って一人も知らないんだ。
一同 アハハハハ……。
山藤 真面目なのかなあ、それ。
家元 コピーになってるね。
山下『学習院女子大生をまだ知らぬ』。うーむ。いい。
家元 その前に『真面目な話』をつけて下さい。
山下 会話ってのはコピーになるんですか?
家元 もちろん、上手に使えば。
番頭 みなさん方のウォームアップができたところで、そろそろお稽古を。
家元 では、このふぐ屋の入口に貼る呼び込みのポスターを作りましょうか。
川上 考えようとすると白くなっちゃうんだ、頭の中が。
山藤 少し時間ください。
番頭 どうぞ、どうぞ。
宮坂 鉛筆もいただけますか。
家元 何でも差し上げます。よかったら番頭の体でも……。
一同(考える)
川上 出来たぞッ。
番頭 や、一番乗り!
川上『ふぐもいろいろ』。真面目なんだね、おれは。
家元(毒)ねらいでもいいよ。
南 ウフッ、『裏ふぐあり』。
川上 いいね。あなた、なんでハガキ出さないの。
南 電話でしゃべっているうちに恥しくなっちゃって……。
家元 ……ええと、私は下町風に、『河豚ホルモン始めました』。よその店で捨てた皮や内臓を持ってきてね……。
山藤 じゃ、同じポイントで、『安楽死賛助店』。
山下 ウハーッ、すごいや。
家元 家元なら選びそうだというのを自分で考えました。『うちの河豚はかわいいですよ』
南 ハハ、ハハ、ハハ……。とんかつ屋の看板みたいだ。
家元 結構おもしろいでしょ、作ってみると。
山藤 では、ふぐ刺しをテーマに、『限りなく透明に近い美味』。
番頭 知性を感じますね。
家元 ぼくは村上を感じます。ハハハハ……。
番頭 あのぉ、私もひとつ。『鉄砲よりうまいミサイルふぐ』
家元 ハハハハ、バカみたい。
山藤『カワブタ(河豚)ヤスナリ、あれは祖父です』
家元 こりゃ、すごいや。何か山藤さんのあたりには立ちこめるものが感じられるなァ。
山下 うーん、ダメだ、こりゃかなわん。酒でも飲んで……。(鉛筆を置く)ウグ、ウグ、ウグ……。
川上 (宮坂嬢に)考えてる?
宮坂 ええ、一所懸命考えてるんですけど……。
家元 早くやる方法はあるんだよ。何でもいいから一つ、紙に書いちゃうの。で、それじゃないのを考える……。たとえば『温泉ふぐ芸者』ってのを考えたらそれをすぐ書いちゃって、別のこと考えるんです。
南 じゃ、ダサイやつをひとつ。『死ぬほどうまい!』えい、続いて、『しびれるぜ』。
山下 裕次郎ばりだな。
家元 となると、その横に、『いかす味』。
山下『真っ赤に錆びたふぐ』
一同 アハハハ。
南『ふぐの活き造り』
川上『七転八倒のうまさ』
山藤『らくだの馬さん御用達』
家元 いやぁ、すごいじゃない。
宮坂 あのぉ、これ。(と紙を渡す)
番頭 お嬢ができました、ご静聴下さい。(一同シーンとなる)『一緒に食べようね』
一同(拍手)おー、すばらしい、さすがだなぁ。
山藤 心中物だと気がつかない人には、よさがわからないね。
南 ではこんなのをひとつ、『それじゃフグをご一緒しなさい。失礼のないように』。
川上『山下洋輔はふぐの肝を食って弾くのだ』。あのピアノの弾き方はどうみても……。
山下 もうやけっぱちだ。『立ったままじゃ帰さねぇ』
山藤 口説きを兼ねたコピーで、『ふぐ刺しで恋占いしよう』。愛してる、愛してない、愛してる、愛してないって、一枚ずつ食べてゆくの。
川上『傑物は最後の一枚』
番頭 なるほど、最後の一枚は遠慮の固りですからねえ。
南『ふぐなんか食い飽きたい』。ちょっと貧乏くさいかな。
家元 じゃ、貧乏路線をもう一パツ。これは真面目ですよ、わりと。『五度目くらいからは皆さんウチにおいでです』
南 ハハハハ……。
家元 南にだけうけてる……。
山下 あそうか、最初は安い店しか行けないし、緊張してて味なんかわかんないもんね。
山藤 安全性を強調して、『年賀ハガキで切手シートも当ったことがない店』。
川上 じゃあね、『さあ、肩から力を抜いて』。
家元 ほう、いいねえ。
山藤 ズバリ、『白い贅沢』。
番頭 きれいですね!
家元 うふっ、これは? 『昔うちのおじいちゃんなんか、毎日ふぐ食ってたんだぞぉ』
南 ハハハ、それは、ぼくのネタじゃないか。
家元 そう、南のネタ。『おばあちゃんなんか嫁ぐ前は毎日ふぐ食べてたんだぞぉ』、ハハハッ。
南『ふぐなんて食ったもん、知らないけど』、ハハハ。いくつでもできちゃうよ。
山下『一緒に皿まで食ってもいいんだぜ』
家元 それ、すごい。音がする。
川上『泣くのは食べてからにしようぜ』
家元 色ものはガ然強い。じゃあ、こんなのは? 『お前なあ、処女で、しかもふぐも食っていないっていったら人間じゃねえぞ』
南『なにを脹れてるんだ』
川上『フギュ、食ベメスカ?』
山藤 さすが元英語教師!
家元 外人モノってときどきあるね。『ワタシ、ホントノガイジンデス、ムナゲモアリマス』なんて。
南 胸毛は古い。いまは抜いているやつもいるんだから……。
家元 近藤真彦!
宮坂 キャーッ、イヤ。
川上 タモリは薄そうだね。
南 |多毛《ヽヽ》とは思えない。
一同 (しらける)
糸井重里の萬流コピー塾100
日期:2019-11-08 19:45 点击:336