行业分类
糸井重里の萬流コピー塾101
日期:2019-11-08 19:46  点击:279
 誰でもできる萬流トレーニング

宮坂 あのぉ、いいですか、聞いても。(一同、耳をすます)
家元 ハ、ハイ。
宮坂 糸井さんは、コピーを考えるとき、本当は、すっごく考えるんですか?
家元 いや、あまり考えない。できてからあとで考えます。それが|当り《ヽヽ》か|はずれ《ヽヽヽ》かをね。そっちの方の時間が百倍ちかくかかるんだ。ただ、個性によって、入口は色々あるけどね。
山下 山藤さんはどういう特徴があるの?
家元 えーとね、じっくり頭をつかってて、しかもポンと膝を叩かせるキレがあるのね。たとえば、『お宅にある「坊っちゃん」はもう効きません。半年に一度はとりかえましょう』というのを送って来たの。同じようなコピーがあったんだけど、山藤さんの方がずっといい。『「坊っちゃん」は脱臭剤と同じです。おたくのは効かなくなっていませんか』と比べると、脱臭剤という言葉を省略したのがセンスである、と家元はこのとき申しております。
川上 おれね、ものすごく自信があったのは「一夜を共にする」に出した『……な……』っていうやつだったの。これは無視されちゃった。
家元 いや、無視したんじゃなくてね、あの時(松)をとった『愛してる』と同列なんですよ。
川上 そうか……。
家元 要するに、一対一で向きあったとき「ほんとにほんとだな」っていう部分があって……。川上さんの特徴は、おおぜいの人に語りかけるんじゃなくて、『朝メシもっていったよね』や『……な……』みたいに、一対一で勝負する強さがあるのね。
山藤 それと、『……な……』で口説いている実績にやっかみがあるわけですよ、ハハハ……。
家元 それもあるね、フフフッ。同じように、突然、山藤さんだけに厳しくするわけ。才能豊かな塾生だけに、もっと踏み込んでやれって、ね。
山藤 アハハハ……。でも私も塾長としては非常によくわかるの。似顔絵塾でも、レベルの高い人にはそれ以上のものを求めるからね。
家元「選ぶ」ということはなんて苦しいことなんだろう。
山藤 うーん、ほんとにきついね。ところで、コピーライターに英才教育って効くかなァ。
家元 効かないんじゃない。
山下 でも、訓練はできるんでしょ、遊びながらでも。
家元 あそうだ、昔、山下さんと謎解きをやったでしょ、何々とかけて何と解くっていうの。あれ面白かったね。
山下 落語家のとはちょっとちがうんだよね。
家元 たとえば、ひれ酒とかけて未亡人と解く。その心は、バナナには猿がよく似合います。
山藤 アハハハ。
家元 やってる本人にもぜんぜんわかんないの、もう。
南 難しいよね。自信だけでやるしかない。
家元 要するに、音楽的な言葉遊びなんですよ。なんとなしに響き合っているとか、わざと不協和音を入れるみたいな……。
山下 ビールとかけて障子と解く。心は?
家元 えー、熱海では評判です。
山下 それは繋がりすぎだよ。
家元 できるだけバラバラで、かつ全体では納得できるってのが面白い。飲み屋でこんな遊びをしていると、酔っぱらいが立ち聞きしてね、まざろう、まざろうとするの。
南 まざれないよね、それは。
家元 そんで、無理やり解いちゃったりすんのね。その人、あとで悪酔いしたと思うんだ。もっとカゲキなのはいきなり「その心」に行っちゃうの。
南 ねえ、いきなり「心」っていうのはどういうの。
家元「コップとかけて」といったらさ、「真っ赤になって唸ります」ってやるの。
川上 ハハハ……。こりゃダメだ。でも面白いねえ。
家元 萬流には、こういうニュアンスも多少はあるんですよ。「雑種犬シロ」のとき、『帰るか夕日だ』というのを選んだんだけど、これは「シロとかけて、帰るか夕日だ、と解く」といったようなもんなんです。
南 人の話を聞いてないで駄洒落ばっかり考えている人もいるよね。
家元 でも数うつなら駄洒落がいちばんだね。
山藤 |名《ヽ》洒落より|駄《ヽ》がいいね。
家元 駄洒落は早くないとダメだね。話題がポンポン先に行っちゃってるのに、「さっきの話だけどさあ……」なんて。
山藤 そういう人生ってあるよね、タイミングを逸しちゃって。
南 権力で盛り返そうとする人いるよ。
川上 いるいる。
家元 ぼくの知り合いの中小企業の人とバス旅行いったの。うしろの方で楽しく騒いでいたんですよ。社長は一番前に座ってて誰にも相手をしてもらえないの。そしたら、社長さん、「ガイドさん、マイクを貸してくれんかのぉ」ってマイクを取るや、「みんなッ、もっと和気あいあいとやれッ」……。
一同 ハハハハ。
家元 シーンとしちゃった。それまでは楽しくやってたのに。「和気あいあい」という言葉があんなに新鮮に聞こえたの初めてだ。
番頭 ひとりだけ|わき《ヽヽ》から漏れていたんでございますね。
山藤 わき漏れなし、ハハハ。
家元 使い古された言葉でも、今使うと面白い、ということがあるね。
宮坂 あのぉ、川上先生はいつおつくりになるんですか……。
川上 ひょこっとできるんだよ。『……な……』っていうのはね、夜中にふと目が覚めたとき。あ、こりゃ絶対間違いないと思って、すぐ書きとめといたの。
家元『朝メシもっていったよね』というのはお使いになったんですか、実際に。
川上 いや、それはないな。ぼくは、普通は「な?」とか「めしも食おうよ」っていうんです。
番頭 なるほど、先生のコピーには使用感がございますねえ。
川上 それじゃコンドームを洗って使ってるみたいだね。
一同 アハハハ。
家元 川上先生の場合、存在にコピーが含まれているんです、歩くコピー。『歩く川上宗薫』
一同 ハハハハハ……。
山下 (宮坂嬢に)あなた、「一夜を共にする」で、どれを言われたら、その気になりますか。
宮坂 うーん、そうですねえ。(考える)あのぉ、コレ。『飽きたらセブンイレブンに行けばいいじゃない』
一同 なーるほどぉ……。
宮坂 それから、『人生、経験だ! そうじゃないでしょうか? そういうことで手をうとう』。反対に、こういうのはダメなんです。
家元 それではダメなのを仁王が発表します。
山下『ルイ王朝風というのはつまり、あっ、このホテルに入ればわかる』だって。
宮坂 それから、コレ。
山下『若い女性のひとり寝は危ないから今夜はぼくが一緒にいるよ』
宮坂『宗薫センセイのブンガクについて共同研究してみよう』は、まあまあ。
山藤 やっぱり「歩く川上宗薫」だ。
山下 本人が共同研究できるんだもんなぁ、いいよなぁ……。
宮坂 これも可愛いなあ、『シンデレラはね、夜遊びをして幸せの道を開いたんだよ』。
山下 行為か言葉か、ということもあるよね。『ルイ王朝』のときだって、何もいわないでそっと肩を押してすっとホテルに入った方が強いとか。
宮坂 うふっ……そうかもしれない。
番頭 WAOOH!
家元 番頭さん、高揚してるね。この人は、頭では相当アナーキーなこと考えてるけど、股間に倫理が宿ってるもんだから、自然、悶えちゃうんです。みなさん、失礼しました。
宮坂 えーと、これが一番好きです。
山下 あ、やはりこれ? 『愛してる』(松)だって。
番頭 やはり家元の慧眼でございますね。
家元 いや、ちょっと違うんだよ、番頭さん。ゲームとしてやるのと実際とがゴッチャになっているんだ。
山下 コピーを実際の場面にあてはめるというのは邪道なんじゃないのかなあ。言葉のもつ広がりと現実とは違うからね。その言葉を実際に口にするというのは、それはもうパフォーマンスだと思うんだ。
南 実際は、何もいわないでそっと肩を押した方が勝つんだもんねぇ。
山藤 実践している者はコピー塾には入らない……。
一同 アハハハ。
川上 それにさ、コピーってのは、いつも笑えるってものじゃないよね。萬流は面白すぎるんだよ。出題の趣旨から外れたものにかぎって、また面白い。どうなっているのかしら。
家元 たとえばゲートボールをはやらせようと本気で思うとするでしょ。そうすると『生命のあるかぎり、やり続けたい』みたいな、要するにバンザイしたのを選ぶことになってしまうんです。ところが全面肯定しているコピーには誰も目を止めない。それより多少ひっかき傷を残す言葉の方が目にとまるんです。『これにうつつをぬかして親の死に目にあえなかったやつはいない』なんていうのでも、どっかにひっかかるでしょ。
番頭「死に目」っていう言葉はずいぶん強い言葉ですもの。
家元 そこでひっかかってくれれば、「そうかゲートボールってものがあったのか」で、第一段階はクリアできるわけね。
山下 じゃ、萬流のページ全体でゲートボールが浮き上るという……。
家元 わたしとしては、なるべくそうしたい、コホン。
山藤 なるほど、マジメ派の人にとっては、すべてのコピーが中核をとらえてないと気に食わないんだろうね。
女将 それではみなさん、別室にちり鍋の用意をしましたので、そちらへどうぞ。
一同 おう! (ゾロゾロ移動)
南 別室あります、なんて怪しい感じがいいね。
宮坂 ああ、わたし、おなか、一杯みたい。
川上 寝たくなったら別室もありますよ。
山藤 ぼくはコピー書いて、二日間寝かせるの。二日目に面白いやつを出すんだ。
山下 さすがプロだ。
南『|ふつか《ヽヽヽ》ものですがよろしく』
一同 ハハハハハ。
女将 さあみなさん、お雑炊つくりますからお鍋の中のもの、みんな召し上って下さい。
一同 ハーイ。
家元 じゃ、このへんで、新年をコトホいで、ねずみ君のコピーでも作るか。
一同 えーッ、そりゃ大変だ。(考える)
家元 ねずみを売るわけにもいかないから、ねずみにいいキャッチフレーズをつけてみよう。
一同 (ぶつぶついいながらお稽古帳に鉛筆をはしらせる)
山下 ハーイ、できました。『色の名前になっているのはおれとキツネだけだ』
南 カバがいるんじゃない。
番頭 あれは|樺《ヽ》色です。
山下『ブタの大きさでなくて、ほんとによかったですね』
一同 ハハハ、なんだ、それは?
家元 (考えてる)難しいなぁ。
山藤 またできました。『義賊』。『尻尾は錐の鞘に使えます』という落語ネタもあるね。
家元 じゃ、『おたくの猫ちゃんにおひとつ』。
山下『万匹集って電気を起します』
川上 出来たッ!『ネズミ千匹』
山下 きャー、これはすごい。
一同 アハハハハ。
川上 (宮坂さんに)分かるかね?
宮坂 ………。
家元 それはスゴイ。毎年使えますよ、ソレ。『ウシ千匹』とかさ、ハハハハ。
山藤 えーと、『キュウリまではいいけど、ネズミはやめましょう——微笑』。
山下 たはーッ。
家元 来年は、『ネズミまではいいけどウシはやめましょう』。
一同 ハハハハ。
南『ナスまではいいが……』
山藤『タツまではいいけど……』。どんな構造してるんだ。
山下 ネズミ、難しいなァ。
山藤 |寝ずみ《ヽヽヽ》考えてもダメ、か。
一同 ハハハハ。
川上 はい、できました。『みんな安心しな、ネズミの子ぐらいだよ』
山藤 処女の口説き文句に使えるね、それ。『怖くないよ、ネズミの子ぐらいだよ』って。
家元『触ってごらん、ネズミの子ぐらいだよ』。ハハハ。
山藤 よけい気持悪がるよ。
家元『硬くなったよ、触ってごらん』。他人事みたいにね。
南『触ってごらん、うんこだよ』っていうのがあったね。
家元『舐めるんじゃねえ、クソだぞ』
一同 ハハハハハ。
家元 クソ関係って、おれほんとは得意なんだ。塾生には叱ってばかりいるけど。
南 じゃあ、『ネズミの糞よりウシの糞』。来年ね。
家元 どんな課題でもクソを混ぜればいい。これを《助け糞の法則》という。ハハハハ。
番頭 困ったことです。ネズミやらずにクソばっかし。もう出しきりましたか。
一同 ハーイ。
家元 (宮坂さんに)できた?
宮坂 できない。(うつむく)
一同 うわー、かわいい。
山藤 受け身だからいけないのよ。攻めなきゃ。
家元 そーです。自分で作っちゃったら、人はあとからついてくる。
川上 コピーっていうのは競輪でいう“トップびき”みたいなところがなきゃいけないのかもしれないね。
家元 うん。受ける風の分量で評価されているところがありますね。十周回るうちの九周半をトップで走っていることが大事で、最終的にはゴール直前で抜かれてもいいんだと思う。
山藤 抜かれる一瞬前がおれのゴールだ!
番頭 然り! 家元、塾長のすばらしい結論がでたところで、本日は、
めでたし、めでたし。
小语种学习网  |  本站导航  |  英语学习  |  网页版
11/13 15:31
首页 刷新 顶部