再び重右衛門日記
八月二十九日
本日もまた西風なり。この大海は西風以外は吹かざるか。何やら侘《わ》びしき心地《ここち》して、今日も只《ただ》漂い行くなり。陸にありて、これほど耐え忍びて生くるならば、如何なる苦難もいと小さきことなるべし。昨夜吉治郎の夢を見たり。吉治郎小野浦の海べを泳ぎて何か喚《わめ》きいたり。月|皎々《こうこう》と照らして、吉治郎の顔|物凄《ものすご》く見ゆ。覚めて心に残る夢なり。されど音吉には言わず。武右衛門も如何にあるかと心にかかるなり。
海嶺91
日期:2020-02-28 13:18 点击:366


