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薤露行: 一 夢(1)
日期:2021-01-10 23:24  点击:335

 百、二百、簇(むら)がる騎士は数をつくして北の方(かた)なる試合へと急げば、石に古(ふ)りたるカメロットの館(やかた)には、ただ王妃ギニヴィアの長く牽(ひ)く衣(ころも)の裾(すそ)の響(ひびき)のみ残る。
 薄紅(うすくれない)の一枚をむざとばかりに肩より投げ懸けて、白き二の腕さえ明らさまなるに、裳(もすそ)のみは軽(かろ)く捌(さば)く珠(たま)の履(くつ)をつつみて、なお余りあるを後ろざまに石階の二級に垂れて登る。登り詰めたる階(きざはし)の正面には大いなる花を鈍色(にびいろ)の奥に織り込める戸帳(とばり)が、人なきをかこち顔なる様にてそよとも動かぬ。ギニヴィアは幕の前に耳押し付けて一重向うに何事をか聴(き)く。聴きおわりたる横顔をまた真向(まむこう)に反(か)えして石段の下を鋭どき眼にて窺(うかが)う。濃(こま)やかに斑(ふ)を流したる大理石の上は、ここかしこに白き薔薇(ばら)が暗きを洩(も)れて和(やわら)かき香(かお)りを放つ。君見よと宵(よい)に贈れる花輪のいつ摧(くだ)けたる名残(なごり)か。しばらくはわが足に纏(まつ)わる絹の音にさえ心置ける人の、何の思案か、屹(き)と立ち直りて、繊(ほそ)き手の動くと見れば、深き幕の波を描いて、眩(まば)ゆき光り矢の如く向い側なる室(しつ)の中よりギニヴィアの頭(かしら)に戴(いただ)ける冠を照らす。輝けるは眉間(みけん)に中(あた)る金剛石ぞ。
「ランスロット」と幕押し分けたるままにていう。天を憚(はば)かり、地を憚かる中に、身も世も入(い)らぬまで力の籠(こも)りたる声である。恋に敵なければ、わが戴ける冠を畏(おそ)れず。
「ギニヴィア!」と応(こた)えたるは室の中なる人の声とも思われぬほど優しい。広き額を半ば埋(うず)めてまた捲(ま)き返る髪の、黒きを誇るばかり乱れたるに、頬(ほお)の色は釣(つ)り合わず蒼白(あおじろ)い。
 女は幕をひく手をつと放して内に入(い)る。裂目(さけめ)を洩れて斜めに大理石の階段を横切りたる日の光は、一度に消えて、薄暗がりの中に戸帳の模様のみ際立(きわだ)ちて見える。左右に開く廻廊には円柱(まるばしら)の影の重なりて落ちかかれども、影なれば音もせず。生きたるは室の中なる二人のみと思わる。
「北の方(かた)なる試合にも参り合せず。乱れたるは額にかかる髪のみならじ」と女は心ありげに問う。晴れかかりたる眉(まゆ)に晴れがたき雲の蟠(わだか)まりて、弱き笑(わらい)の強(し)いて憂(うれい)の裏(うち)より洩れ来(きた)る。

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