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薤露行:三 袖(4)
日期:2021-01-10 23:38  点击:359

(くれない)に人のまことはあれ。恥ずかしの片袖を、()われぬに参らする。(かぶと)()いて勝負せよとの願なり」とかの袖を押し遣る如く前に(いだ)す。男は容易に答えぬ。
「女の贈り物受けぬ君は騎士か」とエレーンは訴うる如くに下よりランスロットの顔を(のぞ)く。覗かれたる人は薄き唇を一文字に結んで、燃ゆる片袖を、右の手に半ば受けたるまま、当惑の眉を思案に刻む。ややありていう。「(たたかい)に臨む事は大小六十余度、闘技の場に登って槍を交えたる事はその数を知らず。いまだ佳人の贈り物を、身に帯びたる(ため)しなし。(なさけ)あるあるじの子の、情深き賜物を(いな)むは礼なけれど……」
「礼ともいえ、礼なしともいいてやみね。礼のために、()を冒して参りたるにはあらず。思の(こも)るこの片袖を天が下の勇士に贈らんために参りたり。切に受けさせ給え」とここまで踏み込みたる上は、かよわき乙女の、かえって一徹に動かすべくもあらず。ランスロットは(まど)う。
 カメロットに集まる騎士は、弱きと強きを通じてわが盾の上に描かれたる紋章を知らざるはあらず。またわが腕に、わが兜に、美しき人の贈り物を見たる事なし。あすの試合に後るるは、始めより出づるはずならぬを、半途より思い返しての仕業(しわざ)故である。闘技の(らち)に馬乗り入れてランスロットよ、後れたるランスロットよ、と(うた)わるるだけならばそれまでの浮名である。去れど後れたるは病のため、後れながらも参りたるはまことの病にあらざる証拠(あかし)よといわば何と答えん。今(さいわい)に知らざる人の盾を借りて、知らざる人の袖を(まと)い、二十三十の騎士を(たお)すまで深くわが(おもて)を包まば、ランスロットと名乗りをあげて人驚かす夕暮に、――(たれ)(かれ)共にわざと後れたる我を(うけが)わん。病と臥せる我の作略(さりゃく)を面白しと感ずる者さえあろう。――ランスロットは(ようや)くに心を定める。
 部屋のあなたに輝くは物の具である。(よろい)の胴に立て懸けたるわが盾を軽々(かろがろ)と片手に()げて、女の前に置きたるランスロットはいう。
「嬉しき人の真心を兜にまくは騎士の(ほま)れ。ありがたし」とかの袖を女より受取る。
「うけてか」と片頬(かたほ)()める様は、谷間の(ひめ)百合(ゆり)に朝日影さして、しげき露の(あと)なく(かわ)けるが如し。
「あすの勝負に用なき盾を、逢うまでの形身(かたみ)と残す。試合果てて再びここを()ぎるまで守り給え」
「守らでやは」と女は(ひざまず)いて両手に盾を(いだ)く。ランスロットは長き袖を眉のあたりに掲げて、「赤し、赤し」という。
 この時(やぐら)の上を(からす)鳴き過ぎて、()はほのぼのと明け渡る。

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