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薤露行:四 罪(1)
日期:2021-01-21 23:40  点击:301


 アーサーを(きら)うにあらず、ランスロットを愛するなりとはギニヴィアの(おの)れにのみ語る胸のうちである。
 北の(かた)なる試合果てて、行けるものは皆(やかた)に帰れるを、ランスロットのみは影さえ見えず。帰れかしと念ずる人の便(たよ)りは絶えて、思わぬもののを連ねてカメロットに入るは、見るも益なし。一日には二日を数え、二日には三日を数え、(つい)に両手の指を(ことごと)く折り尽して十日に至る今日(こんにち)までなお帰るべしとの(ねがい)を掛けたり。
「遅き人のいずこに(つな)がれたる」とアーサーはさまでに心を悩ませる気色(けしき)もなくいう。
 高き(しつ)の正面に、石にて築く段は二級、半ばは厚き毛氈(もうせん)にて(おお)う。段の上なる、(おおい)なる椅子(いす)に豊かに()るがアーサーである。
「繋ぐ日も、繋ぐ月もなきに」とギニヴィアは答うるが如く答えざるが如くもてなす。王を二尺左に離れて、床几(しょうぎ)の上に、(ほそ)き指を組み合せて、(ひざ)より下は長き(もすそ)にかくれて(くつ)のありかさえ定かならず。
 よそよそしくは答えたれ、心はその人の名を聞きてさえ(おど)るを。話しの種の思う坪に()えたるを、寒き息にて吹き枯らすは口惜し。ギニヴィアはまた口を開く。
(おく)れて行くものは後れて帰る(おきて)か」といい添えて片頬(かたほ)に笑う。女の笑うときは危うい。
「後れたるは掟ならぬ恋の掟なるべし」とアーサーも穏かに笑う。アーサーの笑にも特別の意味がある。
 恋という字の耳に響くとき、ギニヴィアの胸は、(きり)に刺されし(いたみ)を受けて、すわやと躍り上る。耳の裏には()と音がして熱き血を()す。アーサーは知らぬ顔である。
「あの(そで)の主こそ美しからん。……」
「あの袖とは? 袖の主とは? 美しからんとは?」とギニヴィアの呼吸ははずんでいる。
「白き挿毛(さしげ)に、赤き鉢巻ぞ。さる人の贈り物とは見たれ。繋がるるも道理じゃ」とアーサーはまたからからと笑う。
「主の名は?」
「名は知らぬ。ただ美しき故に美しき少女というと聞く。過ぐる十日を繋がれて、残る(いく)()を繋がるる身は果報なり。カメロットに足は向くまじ」
「美しき少女! 美しき少女!」と続け様に叫んでギニヴィアは薄き(くつ)に三たび石の(ゆか)を踏みならす。肩に負う髪の時ならぬ波を描いて、二尺余りを一筋ごとに末まで渡る。

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