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薤露行:五 舟(1)
日期:2021-01-21 23:52  点击:357

「に巻ける絹の色に、槍突き合わす敵の目も覚(さ)むべし。ランスロットはその日の試合に、二十余人の騎士を仆(たお)して、引き挙ぐる間際(まぎわ)に始めてわが名をなのる。驚く人の醒(さ)めぬ間(ま)を、ラヴェンと共に埒(らち)を出でたり。行く末は勿論(もちろん)アストラットじゃ」と三日過ぎてアストラットに帰れるラヴェンは父と妹に物語る。
「ランスロット?」と父は驚きの眉(まゆ)を張る。女は「あな」とのみ髪に挿(さ)す花の色を顫(ふる)わす。
「二十余人の敵と渡り合えるうち、何者かの槍(やり)を受け損じてか、鎧(よろい)の胴を二寸下(さが)りて、左の股(また)に創(きず)を負う……」
「深き創か」と女は片唾(かたず)を呑んで、懸念の眼をる。
「鞍(くら)に堪えぬほどにはあらず。夏の日の暮れがたきに暮れて、蒼(あお)き夕(ゆうべ)を草深き原のみ行けば、馬の蹄(ひづめ)は露に濡(ぬ)れたり。――二人は一言(ひとこと)も交(か)わさぬ。ランスロットの何の思案に沈めるかは知らず、われは昼の試合のまたあるまじき派手やかさを偲(しの)ぶ。風渡る梢(こずえ)もなければ馬の沓(くつ)の地を鳴らす音のみ高し。――路は分れて二筋となる」
「左へ切ればここまで十哩(マイル)じゃ」と老人が物知り顔にいう。
「ランスロットは馬の頭(かしら)を右へ立て直す」
「右? 右はシャロットへの本街道、十五哩は確かにあろう」これも老人の説明である。
「そのシャロットの方(かた)へ――後(あと)より呼ぶわれを顧みもせで轡(くつわ)を鳴らして去る。やむなくてわれも従う。不思議なるはわが馬を振り向けんとしたる時、前足を躍らしてあやしくも嘶(いなな)ける事なり。嘶く声の果(はて)知らぬ夏野に、末広に消えて、馬の足掻(あがき)の常の如く、わが手綱(たづな)の思うままに運びし時は、ランスロットの影は、夜(よ)と共に微(かす)かなる奥に消えたり。――われは鞍を敲(たた)いて追う」
「追い付いてか」と父と妹は声を揃(そろ)えて問う。

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