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虞美人草 二(13)
日期:2021-03-10 04:33  点击:453

「ここです」と藤尾は、軽く諸膝(もろひざ)を斜(なな)めに立てて、青畳の上に、八反(はったん)の座布団(ざぶとん)をさらりと滑(す)べらせる。富貴(ふうき)の色は蜷局(とぐろ)を三重に巻いた鎖の中に、堆(うずたか)く七子(ななこ)の蓋(ふた)を盛り上げている。
 右手を伸(の)べて、輝くものを戛然(かつぜん)と鳴らすよと思う間(ま)に、掌(たなごころ)より滑る鎖が、やおら畳に落ちんとして、一尺の長さに喰(く)い留(と)められると、余る力を横に抜いて、端(はじ)につけた柘榴石(ガーネット)の飾りと共に、長いものがふらりふらりと二三度揺れる。第一の波は紅(くれない)の珠(たま)に女の白き腕(かいな)を打つ。第二の波は観世(かんぜ)に動いて、軽く袖口(そでくち)にあたる。第三の波のまさに静まらんとするとき、女は衝(つ)と立ち上がった。
 奇麗な色が、二色、三色入り乱れて、疾(と)く動く景色(けしき)を、茫然(ぼうぜん)と眺(なが)めていた小野さんの前へぴたりと坐った藤尾は
「御母(おかあ)さん」と後(うしろ)を顧(かえり)みながら、
「こうすると引き立ちますよ」と云って故(もと)の席に返る。小野さんの胴衣(チョッキ)の胸には松葉形に組んだ金の鎖が、釦(ボタン)の穴を左右に抜けて、黒ずんだメルトン地を背景に燦爛(さんらん)と耀(かが)やいている。
「どうです」と藤尾が云う。
「なるほど善(よ)く似合いますね」と御母(おっか)さんが云う。
「全体どうしたんです」と小野さんは煙(けむ)に巻かれながら聞く。御母さんはホホホと笑う。
「上げましょうか」と藤尾は流し目に聞いた。小野さんは黙っている。
「じゃ、まあ、止(よ)しましょう」と藤尾は再び立って小野さんの胸から金時計を外(はず)してしまった。

 

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