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虞美人草 十五 (14)
日期:2021-05-05 23:14  点击:308
「どうすれば好いか、どうせ(おっか)さんのような無学なものには分らないが、無学は無学なりにそれじゃ済まないと思いますよ」
(いや)なんですか」
「厭だなんて、そんなもったいない事を今まで云った事があったかね」
「有りません」
(わたし)も無いつもりだ。御前がそう云ってくれるたんびに、御礼は始終(しょっちゅう)云ってるじゃないか」
「御礼は始終聞いています」
 母は転がった鉛筆を取り上げて、(とが)った先を見た。丸い護謨(ゴム)の尻を見た。心のうちで手のつけようのない人だと思った。ややあって護謨の尻をきゅうっと洋卓(テエブル)の上へ引っ張りながら云う。
「じゃ、どうあっても(うち)()ぐ気はないんだね」
「家は襲いでいます。法律上私は相続人です」
「甲野の家は襲いでも、(おっ)かさんの世話はしてくれないんだね」
 甲野さんは返事をする前に、(ひとみ)を長い眼の真中に据えてつくづくと母の顔を眺めた。やがて、
「だから、家も財産もみんな藤尾にやると云うんです」と慇懃(いんぎん)に云う。
「それほどに御云いなら、仕方がない」
 母は溜息と共に、この一句を洋卓の上にうちやった。甲野さんは超然としている。
「じゃ仕方がないから、御前の事は御前の思い通りにするとして、――藤尾の方だがね」
「ええ」
「実はあの小野さんが好かろうと思うんだが、どうだろう」
「小野をですか」と云ったぎり、黙った。
「いけまいか」
「いけない事もないでしょう」と(ゆっ)くり云う。
「よければ、そうきめようと思うが……」
「好いでしょう」
「好いかい」
「ええ」
「それでようやく安心した」
 甲野さんはじっと眼を()らして正面に何物をか見詰めている。あたかも前にある母の存在を認めざるごとくである。
「それでようやく――御前どうかおしかい」

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