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虞美人草 十六 (2)
日期:2021-05-05 23:25  点击:260
 老人は(つる)を持って、ぐっと祥瑞を宙に釣るし上げた。
「どうだ」
「ええ。好いですね」
「好いだろう。祥瑞は(にせ)の多いもんで容易には買えない」
「全体いくらなんですか」
「いくらだか当てて御覧」
「見当が着きませんね。滅多(めった)な事を云うとまたこの間の松見たように頭ごなしに叱られるからな」
「壱円八十銭だ。安いもんだろう」
「安いですかね」
「全く堀出(ほりだし)
「へええ――おや椽側にもまた新らしい植木が出来ましたね」
「さっき万両(まんりょう)と植え替えた。それは薩摩(さつま)(はち)で古いものだ」
「十六世紀頃の葡萄耳(ポルトガル)人が被った帽子のような恰好(かっこう)ですね。――この薔薇(ばら)はまた大変赤いもんだな、こりゃあ」
「それは仏見笑(ぶっけんしょう)と云ってね。やっぱり薔薇の一種だ」
「仏見笑? 妙な名だな」
華厳経(けごんきょう)外面(げめん)如菩薩(にょぼさつ)内心(ないしん)如夜叉(にょやしゃ)と云う句がある。知ってるだろう」
「文句だけは知ってます」
「それで仏見笑と云うんだそうだ。花は奇麗だが、大変(とげ)がある。(さわ)って御覧」
「なに触らなくっても結構です」
「ハハハハ外面如菩薩、内心如夜叉。女は危ないものだ」と云いながら、老人は雁首(がんくび)の先で祥瑞(しょんずい)の中を穿(ほじく)廻す。
「むずかしい薔薇があるもんだな」と宗近君は感心して仏見笑を(なが)めている。
「うん」と老人は思い出したように膝を打つ。
(はじめ)あの花を見た事があるかい。あの(とこ)()してある」
 老人はいながら、顔の向を(うしろ)へ変える。(ねじ)れた(くび)に、行き所を失った肉が、三筋ほど(くび)られて肩の方へ()り出して来る。

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