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恐怖王-噩梦(2)
日期:2021-08-29 23:51  点击:255

 その様子が、本当に悪夢の中の様な気違いめいた感じであったけれど、青年はそんなことを(うたぐ)っている余裕はなかった。
「アア、よかった。照子さん、僕お迎えに来たんですよ。あなた一人切りで、こんな淋しいとこにいたんですか。誰かに監禁されたのでしょう。そいつはどこへ行ったのです。奥の方の暗闇の中に見張っているのですか」
 近よって、縁側に手をついて、一間(いっけん)程奥に坐っている照子の方へ、顔を突き出しながら、セカセカと尋ねた。
「イイエ、誰もいないんです。あたし一人っ切りよ。あたし待ってたわ」
 照子は蝋燭の後光の中から、淋しげな冷い顔で、ニッコリともせず答えた。何となくこの世のものではない、もっと別の世界の神々(こうごう)しい女性の様に思われた。
「待ってたわ」という言葉が、力強く、何か妙な意味を含んで発音せられた。それが変てこな、耳慣れぬアクセントだったので、「オヤッ、これは本当に照子さんなのかしら」とギョッとした程であった。
「サア、帰りましょう。早くそこから降りていらっしゃい。僕お宅まで送ってあげますから」
 青年がせき立てても、照子は身動きさえしなかった。
「イイエ、あたし今は帰れませんのよ。それよりも、あなたここへお上り遊ばせな。そして、この静かな部屋で、二人っ切りで、ゆっくりお話ししましょうよ」
 どうも変だ。照子さんは悪者の為にひどい目にあって、気が違ってしまったのではあるまいか。鳥井はふとそんなことを考えると、ションボリと淋し相にしている恋人がいじらしくて、涙がこぼれ相になった。
 彼は動こうともせぬ照子を抱き起す(ため)に、靴を脱いで縁側を上った。
 照子は写真で見た通りの高島田に結って、それが少しくずれて、ほつれ毛が額に垂れていた。気がつくと、着ているのは派手な赤い模様の長襦袢(ながじゅばん)一枚で、その胸がはだかって、真白な肌があらわになっているのが、何とも云えぬ物凄い(なまめ)かしさであった。
 鳥井青年が、少しためらったあとで、照子の(やわらか)い肩に手をかけるのを合図の様に、縁側の蝋燭が消えた。たった一つの光線が()せると、あとは墨を流した様な真の闇であった。
「アアいけない。火を消してしまった。僕マッチ持ってますから、今つけます」
 慌ててマッチを探ろうとする手を、生温(なまぬる)い女の手がギュッと握った。
「イイエ、いいのよ。蝋燭なんかない方がいいわ。ね、鳥井さん、分らなくって。その蝋燭はあたしが吹き消したのよ」
 その声と一緒に、柔いフカフカしたものが、蛇の様に青年の身体にまきついて、身動きも出来なくなってしまった。相手の熱い呼吸(いき)が頬の産毛(うぶげ)をそよがせた。

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