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恐怖王-空中的怪字(2)
日期:2021-08-29 23:51  点击:266

 畳の様におだやかな大海原の上、晴れ渡った紺青(こんじょう)の空高く、一台の飛行機が、大胆な曲線を描いて飛んでいた。その飛行機の尻尾(しっぽ)からモクモクと湧き出す黒煙の帯。これだ。海岸の群集はこの煙幕に見入っているのだ。
 逆転、横転、錐揉(きりも)みと、自由自在に飛び廻る鳥人の妙技につれて、夕立雲の様に毒々しい煙幕は、見る見る紺青の空を、不思議な曲線で塗りつぶして行く。
「海軍飛行機ですか」
 群集に近よって尋ねて見ると、
「サア、どこのですかね、全く不意打ちなんですよ。新聞には何も出ていなかったですからね」
 という答えだ。
「オヤッ、ごらんなさい。何とすばらしいじゃありませんか。あの飛行機は空に字を描いているんですよ。アレ、アレ」
 誰かが突然叫び出した。
 成程、よく見ると、大空に一町四方もある巨大なローマ字が、ツー、ツー、クル、クルと、先ず描き出したのは、Kの字。
 続いて、クルリ、ツーッと逆転して、モクモクと現われたのはy、それからo、f、u、o……
 最後のoを描き終った頃には、初めのKはボヤッと拡がって、形がくずれかけていたけれど、それ丈けに、思わず腋の下から油汗がにじみ出す様な、悪夢の物凄さを(もっ)て、頭の上から人を押しつける、空一杯の怪文字(もんじ)Kyofuo ……キョーフオー……恐怖王!
「恐怖王、恐怖王」
 の囁きが群集の間に湧き起ったかと思うと、まるで狂気の津波の様に、たちまち拡がり高まって、海岸全体の不気味な合唱となった。
「恐怖王だ、恐怖王だ、あいつがあの飛行機に乗っているのだ」
 だが千メートルもあろうという、高空の悪魔をどうすることが出来よう。
 アレヨ、アレヨと騒ぎ立つ海岸の群集を尻目に、悪魔の飛行機は、(みず)から描いた煙幕文字に隠れて、見る見る機影を縮め、漠々(ばくばく)たる水天一髪(すいてんいっぱつ)彼方(かなた)に消え去ってしまった。

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