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海底魔术师-铁人鱼(2)
日期:2021-08-29 23:51  点击:275

 しかし、一郎君は勇気のある少年でした。おそろしいものを見たからといって、びっくりして、にげかえるような弱虫ではありません。にげるどころか、はんたいに、もっと近くから、あの怪物の姿をはっきり見きわめてやろうと決心したのです。
 うらみちづたいに、岩山をかけおりて、海岸にあるトンネルのような岩のかげから、そっと怪物をのぞきました。怪物のこしかけている岩は、つい目のさき十メートルほどのところにあるのです。
 もう太陽がすっかりしずんで、空はネズミ色に、海はどす黒くなっていました。岩のならんだ波うちぎわに、白い波がはげしくうちよせています。そこのひとつの岩の上に、黒い鉄のような生きものが、むこうをむいて、じっとしていました。十メートルのちかさで見る怪物は、ぞっとするほど、おそろしい姿でした。背中のトサカみたいなものは、まるで(つるぎ)をならべたように、するどくとがっています。大きなしっぽは鉄のワニのようで、動くとガチャガチャと音がしそうです。
 一郎君のいきづかいが、はげしくなってきました。いったい、こんなおそろしい怪物が、太平洋にすんでいたのでしょうか。ふかいふかい海の中の谷ぞこには、動物学者も知らないような怪物がいると、きいていましたが、それがひょっこり、この日本の海岸へ、姿をあらわしたのでしょうか。
 ドキドキする胸をおさえて、そんなことをかんがえていたとき、怪物が身動きをしました。そして、とつぜんぐるっとこちらをふりむいたのです。
 一郎君は、心臓がのどまでとびあがるような気がしました。ああ、その怪物の顔! 一郎君は一生がい、わすれることはできないでしょう。背中の、するどいトサカが、頭の上までつづいていました。ほら穴みたいに、くぼんだ、大きなふたつの目が、リンのように青く光っていました。口は耳までさけてそのくちびるのあいだから、ニューッと牙がつきだしていました。
 一郎君は、それを見たしゅんかんに、岩かげに身をかくしましたが、怪物の方ではもうちゃんと気づいていました。
「ジャ、ジャ、ジャ、ジャ……。」という、鉄と鉄がすれあうような、気味のわるい大きな音がひびいてきました。あとでわかったのですが、それは怪物の笑い声だったのです。
「カクレテモ、ダメダ。オレハ、シッテイルゾ。デテコイ、ソシテ、オレノイウコトヲキケ。」
 怪物の声でした。この海底のばけものは、日本語をしゃべるのです。しかし、発音はひどくあいまいで、やっぱり鉄のすれあうような音で、よほど注意しないとききとれないのです。
 一郎君はもうだめだとおもいました。この怪物につかまえられて海の底につれていかれるのだと、決死のかくごをきめました。そして、勇敢にも岩かげから顔を出して、怪物とにらみあったのです。
「キミハ、ツヨイネ、エライコドモダ。キミナラ、オレノイウコトヲ、ミンナニ、ツタエテクレルダロ。イイカ、ヨクキケ。オレハ、ウミノソコノ、マモノダ。コノムラニハ、モウコナイ。シカシ、マモナク、ニッポンジュウガ、オオサワギニナルダロ、オレガ、シゴトヲ、ハジメルカラダ。ミンナニ、ソウイッテオケ、ウミノソコノ、マモノガ、イヨイヨ、ニッポンニ、ジョウリクシタト、ソウイッテオケ。ワカッタカ。」
 そして、また、「ジャ、ジャ、ジャ、……。」と鉄のすれあう笑い声をたてたかとおもうと、ドブンという音がして、たちまち、怪物の姿は見えなくなってしまいました。白波(しらなみ)さかまく海の中へ、とびこんだのです。

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