大鳥氏はそれを見ますと、もうびっくりしてしまって、もしや黄金塔がぬすまれたのではないかと、急いでかぎをとりだし、板戸をあけて床の間を見ましたが、黄金塔はべつじょうなく、さんぜんとかがやいていました。さすがの賊にも、三段がまえの防備装置をやぶる力はなかったものとみえます。
しかし、ここまでしのびこんでくるようでは、もういよいよゆだんがなりません。刑事や店員の見はりなどは、このお化けのような怪盗には、少しのききめもありはしないのです。
「今夜から、わしがこの部屋で寝ることにしよう。」
大鳥氏は、とうとうたまらなくなって、そんな決心をしました。そして、その夜になりますと、黄金塔の部屋に夜具を運ばせて、宵のうちから床にはいり、すきなたばこをふかしながら、まじまじと宝物の見はり番をつとめるのでした。
十時、十一時、十二時、今夜にかぎって、時計の進むのがばかばかしく、おそいように感じられました。やがて、一時、二時、むかしのことばでいえば、丑三つ時です。もう電車の音も聞こえません。自動車の地ひびきもまれになりました。昼間のさわがしさというものが、まったくとだえて、都内の中心の商店街も、水の底のような静けさです。
ときどき、板戸の外の廊下に、人の足音がします。寝ずの番の店員たちが、時間をきめて、家中を巡回しているのです。
店の大時計が三時を打ちました。それから、十時間もたったかと思うころ、やっと四時です。
「おお、もう夜明けだ。二十面相め、今夜は、とうとうあらわれなかったな。」
そう思うと、大鳥氏は、にわかにねむけがさしてきました。そして、もう大じょうぶだという安心から、ついウトウトねむりこんでしまったのです。
どのくらいねむったのか、ふと目をさますと、あたりはもう明るくなっていました。時計を見れば、もう六時半です。
もしやと床の間をながめましたが、大じょうぶ、大じょうぶ、黄金塔はちゃんとそこに安置されたままです。
「どうだ。いくら魔術師でも、この部屋の中までは、はいれまい。」
大鳥氏は、すっかり安心して、「ウーン」と一つのびをしました。そして、腕をもとにもどそうとして、ヒョイと左のてのひらを見ますと、おや、なんでしょう? てのひらの中がまっ黒に見えるではありませんか。
へんだなと思って、よく見なおしたとき、大鳥氏は、あまりのことに、「アッ。」とさけんで、床の上にとびおきてしまいました。
みなさん、大鳥氏のてのひらには、いったい何があったと思います。そこには、いつのまに、だれが書いたのか、墨黒々と、大きな「3」の字があらわれていたのです。二十面相はとうとう、この部屋の中までも、しのびこんできたとしか考えられません。大鳥氏は、背中に氷のかたまりでもあてられたように、ゾーッと寒けを感じないではいられませんでした。
それと同時に、部屋のいっぽうでは、もう一つ、みょうなことがおこっていました。大鳥氏の目のとどかないすみのほうの板戸が細めにひらかれ、そのすきまから、だれかが部屋の中をじっとのぞいているのです。
ほおのふっくらした、かわいらしい顔。なんだか見おぼえのある人物ではありませんか。ああ、そうです。それはきのうの朝、板戸の文字を発見してさわぎたてた、あの少女なのです。数日前にやとわれたばかりの、十五―六のお手伝いさんなのです。
少女は、てのひらの文字に青ざめている大鳥氏を、なんだかおかしそうに見つめていましたが、やがて、サッと顔をかくすと、板戸を音のせぬよう、ソロソロとしめてしまいました。
この少女は、かぎのかけてある板戸を、どうしてひらくことができたのでしょう。いや、それよりも、まだやとわれたばかりの小娘のくせに、なんというあやしげなふるまいをするやつでしょう。
大鳥氏も店員も、まだ、このことを少しも気づいていないようですが、わたしたちは、この少女の行動を、ゆだんなく見はっていなければなりません。
少年侦探团-奇怪的少女(3)
日期:2021-09-19 23:56 点击:256