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一寸法师-疑惑(08)
日期:2021-09-29 23:53  点击:312

「まあ待ち給え、まだ少し残っている。議論はあとにして兎も角一応説明してしまおう。僕もまだ(せわ)しい身体なんだ。次はこの三通の手紙だ。これが又色々なことを教えてくれるのだよ。封筒が二つ、葉書(はがき)が一つ、差出人は表にはどれもKとあるばかりだが、こちらの封筒の中味には北島春雄(きたじまはるお)という本名が(しる)してある。気味の悪い前科者が又一人事件に加わって来た訳だ。この北島というのはつい十日ばかり前に刑務所を出たばかりの前科者なんだよ。君は三千子さんをよく知っているのだろうが、随分だらしのない娘だね。親父は一人娘で甘いのだし、お母さんは(まま)しい仲で、十分しつけが出来ないのだから、無理もないけれど、三千子さんという人は、恐らく生れつきの淫婦(いんぷ)ではないかと思うね。
 これは山野夫人からもらって来た、三千子さんの最近の写真なんだが、この写真を見ても、三千子さんの性質が想像出来る」
 明智は卓上の大型の写真を取って、つくづく眺めながらいった。それは山野の家族一同がそろって(うつ)したもので、大五郎氏を中心にして召使などもすっかり顔を並べていた。
「僕は三千子さんばかりでなく、運転手の蕗屋の顔が知りたくて態とこの大勢で撮ったのをもらって来たのだよ。そこにある破れた手紙によると、蕗屋がこの事件に何かのかかわりを持っていることは確だからね」明智は一寸説明を加えた。「僕は人間の顔を見ることが好きだ。じっと相手の顔を見つめていると、そこから何かしらわいて来るものがある。その人物の過去のあらゆる物語が小さな顔面に結晶している様な気がする。それを一つ一つほぐして行くのは非常に面白い。この三千子さんの表情なんかも色々なことを語っている。第一に来るのは人工という感じだ。作りものという感じだ。髪の結い方、化粧の仕方、洋服の着こなし、これだけを見ても、どんなに技巧のうまい女だか分る。それにこの巧な表情を見るがいい、これは決して生地のままの三千子さんじゃない。舞台に(のぼ)った役者の顔だ。丁度隣に小間使の小松が(なら)んでいるが、面白い対照だね。この方は正反対に無技巧だ。着物から頭から、無表情な顔つきまで、すっかり昔流の日本娘だ。だが、こういうおとなし相な女は、思い込むと随分突飛なことをやり兼ねない。近眼と見えて眼鏡をかけている。それに眉が見えない。眉をそっているのは妙だね。生れつき薄い眉を隠すためなんだそうだが、何だか嫁入をした女の様な感じだね。薄い眉、アア僕は薄い眉を持った女を知っているよ。そいつは思い出しても恐しい奴だった」
 明智は段々雄弁になって行った。何か非常にうれしいことでもある様子だった。併し、聞者(ききて)の紋三は相手の饒舌(にょうぜつ)が何を意味するものか、一寸見当がつかないのだ。彼は北島春雄という男から三千子に当てた三通の手紙をおもちゃにしながら、ふと小松の不思議な失踪について考えた。そして、話の様子では、もしや明智は小松を疑っているのではあるまいかと思った。
「小松がいなくなったことは知っているのですか」
「山野の奥さんから聞いた。僕は今それについて一つの考えが浮んで来たのだ。ひょっとしたら、この事件の中心人物はあの女かも知れないのだ」

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