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一寸法师-疑惑(10)
日期:2021-09-29 23:53  点击:313

 もう一つの封書は、その十日程前に書かれたもので、それにはたった一度でいいから逢ってくれという、哀訴歎願の言葉が綿々と書きつらねてあった。
 葉書には三月二十七日の日付があった。三千子変死の一両日(ぜん)に届いたものだ。恐らく彼は刑務所を放免されると、その足で郵便局に立寄ったのであろう。鉛筆の走り書きで、当事者にしか分らない簡単な、併し恐るべき文句が(したた)めてあった。

お喜び下さい。やっとお目にかかれる様になりました。近日中に是非(ぜひ)お目にかかってお約束を果すつもりです。例のお約束を。K

「こんな葉書を受取って黙っていたのですね。怖くなかったのでしょうか」
 紋三は読み終って不審をはさんだ。
「僕もそれを考えたのだが、ひょっとしたら山野さんには打開けてあったかも知れない。僕は実はまだ一度も山野さんに逢っていないのだよ、熱がひどいらしいので。だが警察の保護なんか願っていないことは確だ。それをやるのは随分恥さらしだからね。三千子さんも蕗屋を(はばか)って打開け兼ねていたのかも知れない。恋人にそういう前科を知られるのはつらいことだから」
「それだと、今度の事件は、この執念深い失恋者の復讐だったかも知れない訳ですね」
 紋三は次々と現れて来た証拠品に面食った形だった。彼は今日この菊水旅館に来るまでは、幾分事件の真相をつかんだ気持でいたのが、明智の話を聞いている内に段々自信を失って行った。これらの証拠品が一体何を指し示しているのだか、明智がどんな判断を下しているのだか少しも分らない。不思議なことには証拠が一つ現れる度毎(たびごと)に、事件の真相が明かにはならないで、反対に益々ややこしく不明瞭なものになって行く様に思われるのだ。
「サア、その点も今のところ確なことはいえないが、もしこの男が下手人だとすると、色々つじつまの合わぬところが出来て来る。第一あの晩には外部から人の入った形跡が少しもないのだからね。といって丁度この男が出獄した時に、三千子さんが殺されたというのは、偶然にしては一致し過ぎている様にも思われる。北島は一年の(あいだ)牢の中で復讐のことばかり考えていたに相違ないのだから、どんな巧妙な手段を考え出していたか分らない。その上失恋と前科の為に半気違いになった捨て身の仕事だし、彼が下手人でないとは容易に断言出来ないよ」
 紋三は、明智が態と曖昧ないい方をして彼をじらしているのではないかと思った。同時にふと例の一寸法師の醜い姿が浮んだ。彼はこの頃何か不可解な事実にぶっつかると、すぐあの畸形児を思い出す様になっていた。
「この北島の行方は分っているのですか」
「今のところ分っていない。だがこれが警察の手に渡れば、前科者でもあるし、そう骨折らないで探し出せるだろう。それは兎も角、ここにまだ少しばかり証拠品が残っていた」明智は卓上の化粧品類と吸取紙を目で示して、「君はもう夫人から聞いて知っているだろうが、例の百貨店の片腕と、それから昨日(きのう)山野氏にあてて郵送して来たもう一つの片腕の指紋を取って、三千子さんの指紋がそれに一致するかどうかを調べて見たのだ。そして、不幸にして僕の推察が当ったのだが、その証拠がこれだ」

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