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一寸法师-畸形魔(03)
日期:2021-09-29 23:53  点击:309

 こもは余りのことに返事も出来ないのか、暫く何の声も聞えなかった。
「てめえ、いいやしめえな。もしいおうもんなら、こんだ、てめえがあの通りの目に逢うんだぞ、いいか」
 うつろの中から又しても気味の悪い笑い声だった。
「とんでもねえ、お前とおれの仲じゃあねえか。口が腐ってもいうもんじゃあねえ。それに、いつも兄貴にゃあ、厄介をかけてるんだからな」
「だろうな。そうなくちゃならねえ。おらあな、定公、自分でも分ってる。因果な身体に生れついたひがみで気狂いになっているんだ。こう、世間の満足な奴らがにくくてたまらねえんだ。奴らあ、おれに取っちゃ(かたき)も同然なんだ。お前だからいうんだぜ。たれも聞いてるものはねえ。おれはこれからまだまだ悪事を働くつもりだ。運が悪くてふんづかまるまでは、おれの力で出来るだけのことはやっつけるんだ」
 押し殺した声が、歯ぎしりと共に高まって、うつろの中に物すごく響いた。
 そして又暫く沈黙が続いた。
「オオ、兄貴、半鐘(はんしょう)だぜ。やっつけたな」
 耳を澄せば(はるか)に鐘の声が聞えた。
「定公、だれもいめえな」
「大丈夫だ」
 それを聞くと悪魔は始めて、うつろの中からのっそりと姿を現した。醜い一寸法師だった。彼は注意深くあたりを見廻してから不具者にも似合わぬす早さで、大木の幹をよじ登り、枝から枝を伝わって、生茂(おいしげ)った葉の中に見えなくなった。彼の手は、短い足の不足を補って、軽業師(かるわざし)の様に自由自在に動いた。丁度猿の木登りといった恰好だった。
「燃える燃える。風がねえけれど、この分じゃあ十軒は確だ」
 梢から悪魔の呪い声が、でも(あたり)を憚かって、殆ど聞きとれぬ程に響いて来た。
 火は公園から西に当って、十町程の手近に見えた。半鐘の()蒸汽(じょうき)ポンプのサイレンの(ひびき)が、活動街の上を越して伝わって来た。それに混って時々樹上の畸形児の狂喜のうなりが聞えた。
 やがてハタハタと忍びやかな、然しあわただしい跫音がして、二人の汚ない少年が塔のうしろへ駈込んで来た。
「あれは、お前達がやっつけたのか」
「そうよ」こもの(とい)に応じて一人の少年が気競(きお)って答えた。「うまく行きやあがった。風はねえけれど十軒は大丈夫だぜ」
 その声を聞きつけたのか、大樹の葉がガサガサ鳴って、サルの様な畸形児が地上に飛び降りた。
「うまくやったな。定公、(おれ)あ又一寸見物と出かけるからな。ソラこれを餓鬼共に分けてやってくんな」

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