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透明怪人-奇奇怪怪
日期:2021-11-10 23:56  点击:317

奇々怪々


 二少年は、よつんばいになると、石やれんがのゴロゴロした地面を、ジリジリと用心ぶかく、はいすすんで、やっと、怪紳士の消えた入り口のようなところに、たどりつきました。
 島田君は右がわ、木下君は左がわの、こわれたかべぎわに、身をふせ、からだをかくして、れんがのこわれたあいだから、目だけをだして、建物の奥をのぞきました。ろう人形は、十メートルほどむこうのれんがのかべの前に、こちらをむいて、立ちはだかっていました。そして、ふしぎなことに、オーバーをぬぎ、上着をぬぎ、今、白いシャツまでぬごうとしているところです。
 シャツのボタンが、ひきちぎれるように、一つ一つはずれてゆき、いちばん下のボタンがはずれたかと思うと、白いシャツがフワッと(ちゅう)に浮いて、地面におちました。
 ああ、そのときの二少年のおどろきは、どんなだったでしょう。キャーッと悲鳴をあげたでしょうか。いや、悲鳴をあげることさえできなかったのです。ただもう、石になったように、からだがかたくなって、息もできないほどの、ふかいふかいおどろきでした。
 怪紳士は化けものだったのです。いや、化けものよりも、もっとおそろしいやつだったのです。
 ぬぎさったシャツの下に、何があったと思います? おそろしいものがあったのでしょうか。しかし、どれほどおそろしくても、何かがありさえすれば、こんなにもおどろきはしません。そこには、何もなかったのです。シャツの下は、からっぽだったのです。
 怪物のろう人形のような顔は、ちゃんとあります。帽子もまだ、かぶったままです。ところが、顔の下には、首も、胸も、腹も、肩も、両手も、何もないのです。そして、腰から下は、ズボンをはいた二本の足がちゃんと、立っているのです。顔とズボンの間に、何もないことは、そこに、うしろのれんがが見えているので、わかります。からだがあれば、そのうしろのれんがのかべは、見えないはずです。
 二少年は、自分たちのほうが、気がちがったのではないかと思いました。夢を見ているのではないかとうたがいました。
 ところが、そのつぎには、もっとおそろしいことが、おこったのです。
 まず、怪物のソフト帽が、目に見えない手で、とりさられるように、スーッと頭をはなれて地面にほうりだされました。それから、二本の足はもとのところに立ったまま、あのろう面のような顔だけが、七十センチも上のほうへ、持ちあげられたのです。そして、その高いところで、右に左にフラフラゆれていたかと思うと、その首が、ポイとほうりだされたように、地面にころがりました。つまり、怪紳士は腰から下だけが、のこって、上半身は、何もなくなってしまったのです。
 そればかりではありません。こんどは目に見えぬ手が、ズボンをとりさろうとしています。バンドがはずれました。それから、ズボンのボタンが、一つずつ、はずれていって、ズボンがグーッと下のほうへ、おしさげられ、クシャクシャになったかと思うと、すっかり足からぬげてしまいました。そして、そのズボンの中も、からっぽだったのです。
 あとには、二つのクツだけが、のこっていました。そのクツが動くのです。目に見えぬ人間の足が、その中にはいっているように、コットリ、コットリと動くのです。それから、二つのクツはいきなり宙にういて、きちがいおどりをはじめました。しばらくおどっていたかと思うと、二つとも、ポトリと地面におちて、死んだように動かなくなりました。そして、二つのクツ下がクシャクシャになって、そこへほうりだされました。
 怪物はクツ下までぬいでしまったのです。頭のてっぺんから、足のつまさきまで、何も身につけない、まっぱだかになったのです。そして、消えてしまったのです。人間の目には少しも見えない、空気のようなものになったのです。
 すると、またしても、ふしぎなことがおこりました。そのへんに、ちらばっていたろう人形の首、帽子、上着、ズボン、シャツ、クツ、クツ下、竹のステッキなどが、ひとりでに、スルスルと動いて、一ヵ所にあつまり、オーバーが、それらをグルグルとまきこんでしまいました。つまり、いっさいのものが、オーバーに包まれたのです。
 その包みがスーッと、宙に浮きました。そして、うしろのれんがのかべにそって、右手のほうへ、動いてゆきます。そのかべのはずれに、人間ひとり通りぬけられるほどの大きな穴があいていました。オーバーの包みは、宙に浮いたまま、その穴の中へ消えてゆきました。
 消えたかと思うと、とつぜん、穴のそとから「ギャッ。」という、ふしぎなさけび声がして、何か物のぶっつかるような、はげしい音がきこえてきました。
 それから、しばらく、あたりはシーンと、しずまりかえっていましたが、見ると、そのかべの穴から、ニューッと、ズボンをはいた足が出て、やがて、ひとりの洋服を着た男があらわれました。
 少年たちは、ろう人形の怪物が、また洋服を着て、もどってきたのかと、ギョッとしましたが、それは怪物ではなくて、さいぜんの第三の尾行者、あの新聞記者ふうの紳士でした。
「ウーム、うまく逃げられてしまった。あいつ、なかなかたいした力だぞ……。なあに、もう正体を見とどけたから、だいじょうぶだ。いまにきっと、ひっとらえてくれるから。」
 紳士は、そんなひとりごとを、つぶやいていましたが、れんがのかげに身をふせているふたりの少年のほうにむきなおると、
「きみたち、もうだいじょうぶだよ。出てきたまえ。あいつは逃げてしまった。」
と、大きな声で、呼びかけました。
 そう言われても、ふたりの少年はあまりのおそろしさに、からだが石のようになり、身うごきはもちろん、声をだすことさえできません。
「ハハハハ……、すっかり、おびえてしまったね。もうあいつは、やってきやしないよ。元気をだして、出てきたまえ。ぼくは化けものじゃない。ふつうの人間だよ。きみたちを、とって食おうとは言わないよ。ハハハ……。」
 その快活な笑い声に、二少年はやっと人ごこちがつきました。そして、やっこらさとおきあがって、からだの土をはらいながら、おずおずと、紳士の前にちかづきました。
「きみたちは、あいつを尾行したんだね。感心だよ。じつはぼくも、きみたちのあとから、あいつを、つけてきたのさ。そして、この穴のそとにまちぶせして、あいつをつかまえてやろうと思ったんだが、あいては目に見えない怪物だからね、とうとう、とり逃がしちゃった。」
 そう言って、また、カラカラと笑うのでした。まるでむかしの化けものたいじの勇士のように、豪胆(ごうたん)な紳士です。
「おじさん、あれは、いったい、なんなの?」
 木下君が、まっさおになって、まぶたから飛びだしそうな、まんまるな目をして、たずねました。
「おじさんにも、わからないね。化けものだよ。いま東京じゅうをさわがせている、えたいのしれない怪物だよ。」
「えッ、東京じゅうをさわがせているって?」
「きみたちは、まだ知らないだろうね。だが、あいつは、東京のほうぼうにあらわれて、いたずらをしているんだよ。いや、いたずらばかりじゃない。大どろぼうをはたらいているんだよ。」
 そう言って、紳士は、くわしい話をはじめました。
 それは、どんな話だったでしょう。
 まったく目に見えない、空気のような、あの怪物は、どこからやってきたのでしょう。人間なのでしょうか。われわれの、いままで少しも知らなかった動物なのでしょうか。それとも、遠い星の国から、この地球へ飛びこんできた、別世界の生きものなのでしょうか。

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