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铁塔王国的恐怖-铁塔王国
日期:2021-11-22 23:52  点击:277

鉄塔王国


 そのおばけカムトムシの、つやつやしたまっ黒な背中には、がい骨の顔のような、白いもようが、ついていました。「黄金虫(こがねむし)」という小説の金色のカブトムシや、死頭蛾(しとうが)という大きなガの背中にも、がい骨の顔がうきだしていますが、あれらと同じような、おそろしいもようが、この巨大なカブトムシの背中にもついていたのです。小林少年があとになって、そのことを新聞記者に話したものですから、翌日の新聞には、その絵が、大きくのせられました。地獄からはいだしてきた、おそろしい妖虫の姿でした。
 しかし、銀座の夜のできごとがあってから、二週間ほどは、なにごともなくすぎさりました。妖虫はあの晩数寄屋橋のところで、かきけすように、見えなくなったまま、一度も姿をあらわさないのです。
 ところが、二週間ほどたった、ある夜のこと、荻窪(おぎくぼ)高橋太一郎(たかはしたいちろう)さんのおうちに、おそろしいことがおこったのです。
 高橋さんは、昭和鉄工会社の社長さんで、荻窪の、およそ三千平方メートルも庭のある、広いやしきに住んでいました。家族は、主人の太一郎さん夫婦と、ふたりの男の子だけで、数人の女中や書生をおいているのです。ふたりの男の子の、兄のほうは、壮一(そういち)君といって、中学二年生、弟のほうは、賢二(けんじ)君といって、小学校四年生でした。
 その晩七時ごろ、高橋さんのところへ、木村というお友だちから、電話がかかってきました。主人の太一郎さんは、ちょうどおうちにいましたので、電話に出ますと、
「いま、村瀬(むらせ)というわたしの会社のものが、おじゃまするから、会ってください。くわしいことは村瀬から聞いてくださるように。」
 ということでした。
 まもなく、その村瀬という男がやってきました。村瀬は、三十歳ぐらいの、やせた人相(にんそう)のよくない男でしたが、こんいな木村さんのおつかいだというので応接間にとおして、ていねいにもてなしました。
 主人の太一郎さんとあいさつをすませて、むかいあって、安楽いすにこしかけましたが、村瀬という男は、だまって、主人の顔を、ジロジロ見ているばかりで、なかなか用件をきりだしません。
「木村君からは、まだ何もきいていないのですが、どんなお話ですか。」
 太一郎さんが、さいそくしますと、村瀬は、ニヤリと笑って、みょうなことをいいました。
「ぼくは、じつは木村さんのつかいではありませんよ。」
「え、それじゃ、さっきの電話は?」
「あれは、ちょっと木村さんの名をかりてぼくがかけたのです。ぼくは、こわいろがうまいでしょう。」
 村瀬は、タバコの煙を、フーッと吹きだして、そううそぶいています。
「なんだって? それじゃ、きみは、木村君の名をかたったんだな。」
 太一郎さんは、おもわず身がまえをしてテーブルの上のベルのボタンに手をのばしました。書生をよぶためです。
「おっと、ベルをおしちゃいけない。あんたとふたりきりで話したいんだ。ベルをおせば、これが火をはくぜ。」
 村瀬は、すばやくポケットからピストルを出して、太一郎さんに、ねらいをさだめました。
 とび道具をもちだされては、どうすることもできません。太一郎さんは、そのままあいてをにらみつけ、じっとしているほかはありませんでした。
「では、用件を話そう。」
 村瀬は、とくいらしく、ペラペラと、しゃべりはじめました。
「鉄塔王国……といっても、あんたにはわかるまいが、そういう名まえの小さい王国が、日本のある山の中にできているんだ。世界でだれも知らない小さい王国だ。ふかいふかい山の中に、まっ黒な鉄の塔がそびえている。そこに一つの別世界ができている。おれは、その鉄塔王国の首領、いや、王さまの命令で、あんたのところへ、やってきたんだ。
 王さまから、お金持ちのあんたに、一つたのみがあるんだ。そのたのみというのは、ほかでもない。鉄塔王国にたいして、一千万円寄付してもらいたい。いくら別世界の王国でも、金がなくては、やっていけないからね。それで、時間と場所をきめておいて、現金で一千万円、おれに手わたしてもらいたい。これが、こんばんの用件だよ。どうだね。返事をききたいね。」
 村瀬という男は、そういって、ピストルの筒口(つつぐち)をあげたりさげたりしながら、主人の顔を見つめるのでした。
 太一郎さんは、あんまりとほうもない話に、あっけにとられてしまいました。そして、こいつは気でもちがっているのではないかと、考えました。
「さあ、返事はどうだね。」
「ハハハ……、そんな金は出せないよ。この日本の中に、べつの王国ができたなんて、だれが信じるものか。それに、一千万円という大金は、わしには、きゅうにどうすることもできないよ。」
 太一郎さんは、まともに答えるのも、バカバカしいような気がしました。
「ふーん。あんたは、おれのいうことを、でたらめだと思っているんだな。それじゃもっとよく、わかるようにいってやろう。鉄塔王国では、小さい子どもが入り用なんだ。たちのよい子どもを集めて、みっちりしこんで、りっぱな兵隊にするんだ。鉄塔王国の近衛兵(このえへい)にしあげるんだ。だから、一千万円がいやなら、あんたの次男の賢二君を、山の中の王国へつれていくが、それでもいいかね。
 どうして、つれていくというのかね。それには、すばらしい武器があるんだ。あんたは、今から二週間ほどまえ、銀座にあらわれた、でっかいカブトムシのことを、知ってるだろう。あれが、鉄塔王国のまもり神だ。あれは、カブトムシの戦車だよ。ピストルのたまだってはじきかえす鋼鉄の戦車だ。そればかりじゃない。あれは魔法つかいだ。幽霊カブトムシだ。みんなの見ているまえで、スーッと、煙のように消えてしまうんだ。それがしょうこに、いつかの晩のカブトムシは、数寄屋橋で消えたまま、どうしても見つからなかったじゃないか。
 鉄塔王国には、こんなおそろしい武器があるんだよ。その武器でもって、子どもたちをさらっていくんだ。頭のいい、かわいらしい、じょうぶな子どもばかりを、さらっていくんだ。警察の力でも、ふせぐことはできない。あいては魔法つかいなんだからね。さあ、子どもがかわいければ、一千万円だ。どちらとも、あんたの心まかせにするがいい。」
 聞けば聞くほど、でたらめのようで、太一郎さんは、どうしても、この男のことばを、信じる気になれません。おばけカブトムシの事件で、世間がさわいでいるのをさいわいに、こんなつくり話をでっちあげたとしか、おもえないのです。
「まよっているね。むりはない。それじゃ一日だけ待つことにしよう。あすの夕方、おれの方から電話をかける。五時から六時までのあいだ、かならずうちにいてくれ。そして、そのときに、金か子どもかはっきりきめてくれ。もし、そのとき、あんたがうちにいなければ、賢二ぼうやをちょうだいする。これははっきりことわっておくよ。」
 村瀬となのる男は、それだけいうと、いすから立ちあがって、庭にむかった大きな窓の方へ、あとじさりに歩いていきました。
「まだ、ベルをおしちゃいけない。おれの姿が見えなくなるまで、じっとこしかけているんだ。でないと、このピストルが火をはくんだぜ。」
 そこの窓には、あついビロードのカーテンが、床までたれていました。村瀬は、そのカーテンのあわせめをまくって、むこうがわに、姿をかくしました。しかし、そのまま、窓から出ていこうともせず、カーテンのあわせめから、ピストルのさきを出して、じっとこちらをねらっています。カーテンの下からは、かれのくつが見えています。そうして立ったまま、しんぼうづよく、身うごきもしないで、こちらのようすをうかがっているのです。
 そのふしぎなにらみあいが、じつに長いあいだつづきました。太一郎さんは、安楽いすにかけたまま、村瀬は、カーテンのかげに身をかくしたまま、ふたりとも、まるで人形のように動かないで、五分間もじっとしていたのです。
 しかし、太一郎さんは、もうがまんができなくなりました。そっと手をのばして、テーブルの上のベルを、つよくおしておいて、いきなりドアの方へ、かけだしました。いまにも、カーテンのピストルが、火をはくのではないかと、ビクビクしましたが、そんなようすも見えません。
 ドアをひらくと、むこうからかけてくる書生に、出会いました。
「あいつは、ピストルをもって、カーテンのかげにかくれている。フランス窓のカーテンだ。だれか庭へまわれ。そして、はさみうちにするんだっ。」
 書生に命じておいて、太一郎さんは、そっとドアの前にもどり、そのすきまから、カーテンの方を見ました。あいては、やっぱり、もとのままの姿でした。カーテンのすきまからはピストルが、カーテンの下からは二つのくつが見えています。さっきから、すこしも動かないのです。
 なんだかへんです。しかし太一郎さんは、まだ部屋の中へとびこんでいく決心がつきません。そこに立ちすくんでいるばかりです。
 しばらくして、カーテンのあたりに、ガチャンという音がしました。ギョッとして見つめていると、いきなりカーテンが、さっと左右にひらかれ、そこから、書生の姿があらわれました。村瀬ではなくて、書生です。そして、村瀬は、どこへ行ったのか、かげもかたちもないのでした。
 あっけにとられていると、書生がニコニコして、カーテンのはしをもちあげてみせました。するとそのカーテンのはしに細い糸で、さっきのピストルが、ぶらさがっているではありませんか。それから床に目をやると、そこには、二つのくつがぬぎすててありました。カーテンがしまっているあいだは、いかにもそこに人が立っているように見えたのです。村瀬というみょうな男は、くつをぬぎすて、ピストルをカーテンにぶらさげておいて、とっくに、窓からにげさっていたのです。
 ただ、にげだしたのでは、書生たちがおっかけてくるでしょうし、警察に電話をかけられ、非常線をはられる心配もあります。それをふせぐために、うまい手品をつかったのです。

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