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灰色巨人-布罩下的怪物
日期:2021-11-28 23:57  点击:299


一寸法師(いっすんぼうし)


 賊が予告した三月七日のまえのばんに、大賞堂の主人と支配人は、店員がみなねてしまってから、そっと起きだして、明智探偵と相談したとおりのことをすませました。つまり、ほんとうの宝石類のはいった古新聞のつつみは、物置部屋のがらくたの中にほうりこまれ、店の大金庫の中のたくさんの、りっぱなサックには、にせものばかりが入れられたというわけです。
 さて、いよいよ、三月七日の夜がきました。
 その夜は、警視庁からやってきた三人の刑事が、ひとりは、店員にばけて、店の売り場に立ち、ふたりは、夜の銀座をさんぽしているような顔をして、大賞堂のショーウィンドーの前を、いったりきたりしていました。
 それとはべつに、明智探偵のほうでも、どこかで見はりしているはずです。しかし、明智探偵が、どんな計略をたてているかは、大賞堂の主人や、支配人にも、わからないのでした。
 その夜は、どんなお客さまがあっても、金庫の中の高価な宝石は見せないことにしました。支配人が、そのことを店員たちにいいつけますと、店員たちも、灰色の巨人の予告のことは、よく知っていましたので、そのいいつけを、かたくまもりました。
 店には支配人のほか七人の店員(そのうちのひとりは、刑事がばけた、にせの店員です。)がいましたが、夜がふけるにしたがって、いまにも怪盗がやってくるのではないかと、みんなビクビクものです。なんでもないお客さまがはいってきても、そのたびにハッとして、あいての顔を、あなのあくほど見つめるというありさまでした。
 ところが心配したほどのこともなく、十時になって店をしめるときまでは、なにごともおこりませんでした。さすがの怪盗も、まだ人どおりの多い店のひらいている時間には、どうすることもできなかったのでしょう。
 じつは店をしめてからが、あぶないのです。店員たちは、支配人のめいれいで、そのばんは徹夜をして、金庫の前にがんばることになりました。ほんものの宝石類が、古新聞づつみとなって、物置部屋にほうりこんであることを、店員たちはすこしも知りませんから、ほんきになって金庫のばんをしたのです。
 おもての戸を、すっかりしめて、ちんれつ台には、白いきれのおおいをかけ、電灯を半分くらいにへらしました。そして、店員たちは、店の中を歩きまわったり、金庫の前のいすにかけて、ぼそぼそと、小声で話をしたりしていました。
 ひとりの店員が、ちんれつ台のあいだを、ぶらぶら歩いていますと、むこうのほうのガラス箱の、おおいのきれが、ヒラヒラと動いているのに気づきました。風もないのに、きれが、動くはずはありません。
「おや、へんだな。イヌが店の中へ、はいりこんだのじゃないかしら。」
と思って、たちどまって、じっと、そのほうをすかして見ましたが、イヌやネコではありません。もっとちがったものです。
「そこにかくれているのは、だれだっ。」
 店員は大きな声でどなって、そのほうへ足ばやに近づいていきました。すると、そのものは、パッとどこかへ、見えなくなってしまうのです。まるでネズミが、チョロチョロと走るようなすばやさです。
 そいつは、むろん、ネズミのような小さなものではありません。しかし、人間ほども大きくはないのです。
「あっ、そこに、なんだかいる。こらっ、おまえ、どこの子だ。」
 べつの店員がそれを見つけてさけびました。ちんれつ台からちんれつ台へ、すばやく姿をかくすようすが、なんだか十歳ぐらいの小さな子どものように、感じられたのです。
「あっ、そっちへにげた。きみ、つかまえてくれ。」
 声をかけられた店員は、いきなりちんれつ台のかげにしゃがんで、あいてを待ちぶせました。
 すると、おおいのきれが、ヒラヒラ動いて、なにものかがこちらへ近づいてきます。子どもではないようです。といって、けものでもありません。その店員はゾーッと、せなかがつめたくなりました。そいつは、なんだかえたいのしれない、ばけもののように思われたからです。
「ケラ、ケラ、ケラ、ケラ……。」
と、白いおおいのきれのかげで、じつにきみのわるい笑い声がしました。
「やいっ、そこにいるやつは、なにものだっ。」
 店員は、にげごしになりながら、ふるえ声でどなりました。
 すると、ケラ、ケラ、ケラという笑い声が、いっそう高くなって、きれのかげから、ニューッと大きな人間の顔があらわれたのです。その顔が、まっかなくちびるを、ヘラヘラ動かして、笑っているのです。まるで、首だけが、ちゅうに浮いているように見えました。たしかに、おとなの顔です。しかし、それが、ちんれつ台にかくれるほど低いところに、ただよっているのです。顔の下に、胴体がないのです。いや、なんだか小さなからだのようなものがあるけれども、そんな顔の大きさに、ちっとも、つりあっていないのです。十歳よりも、もっと小さい子どものからだです。七―八歳の子どものからだに、三十歳のおとなの顔がのっかって、ケラケラ笑っているのです。
「ケラ、ケラ、ケラ……、おい、おまえたち、おれは、ずっとまえから店の中にかくれていたんだよ。おまえたち、気がつかなかったね。ケラ、ケラ、ケラ……。」
 そのものは、いきなり、店員の前に姿をあらわして、子どものような、かんだかい声で、あざけりました。
 それは、かたわもののこびとだったのです。赤いセーターをきて、四十センチぐらいの短いズボンをはいた、一寸法師だったのです。
 店員たちは、それが、あまりぶきみな姿なものですから、あっけにとられて見つめたまま、口もきけないありさまです。しかし、店員にばけた刑事は、さすがに勇敢です。つかつかと一寸法師のそばによって、どなりつけました。
「きさま、サーカスからにげ出してきたのか。いったい、なんのために、この店の中に、かくれていた。」
 一寸法師は、すこしもひるまず、またケラケラと笑いました。
「そのわけが、知りたいのか。」
「ずうずうしいやつだ。早く、わけをいえ。」
「おまえたち、なぜ、戸をしめてから、店にうろうろしているんだ。」
「そんなことは、どうだっていい。」
「ケラ、ケラ、ケラ……かくしたって、知ってるぞ。灰色の巨人がこわいのだろう。今にも、やってくるかと、びくびくしているんだろう。」
「やっ、きさま、灰色の巨人のなかまなんだな。」
「ふふん、まあそんなところだね。」
 一寸法師は、両方のうでをまげて腰にあて、顔をつんと上にむけて、すまして見せました。
 刑事はもうがまんができません。おそろしい顔で、一寸法師につかみかかっていきました。ところが、みじかい足の一寸法師が、あんがい、すばやいのです。かれは刑事の手の下をすりぬけて、ちんれつ台のあいだの、せまいすきまへ逃げこんでしまいました。
 あいてがこびとだけに、しまつがわるいのです。おとなのからだでは、とても通れないようなところばかりを、にげまわるのですから、なかなかつかまりません。そうしてオニごっこをしているうちに、とつぜん、パッと、電灯が消えてしまいました。一寸法師が、にげまわりながら、スイッチをおしたのです。
「だれか、早くスイッチを……。」
 いわれるまでもなく、ひとりの店員が、スイッチをさぐりあてて、電灯をつけました。ところが、そのときには、一寸法師の姿は、どこにも見えなくなっていました。
「へんだなあ、消えてしまったぜ。」
 いくらさがしても見つかりません。表は、すっかり戸じまりがしてあるので、そちらへにげることはできません。おくのほうへの通路には、二―三人の店員が立っていましたから、こちらへも、ぜったいにいけないのです。
 それでいて、店じゅうを、くまなくしらべても、こびとはどこにもいないではありませんか。煙のように消えうせてしまったのです。

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