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灰色巨人-追踪巨人
日期:2021-11-28 23:57  点击:296

巨人ついせき


 一寸法師のさわぎで、主人も支配人も、うちの人がみんな店へ集まってきました。
 あぶない、あぶない、これは怪盗の、れいの手かもしれません。どこからか一寸法師を、やとってきて、店でこんなおしばいをさせて、みんながそれに気をとられているすきに、なにかやろうというのではないでしょうか。
 そのとき、大賞堂のおくのほうの物置部屋の板戸(いたど)が、ソーッとひらいていました。そして、その中から、若い女があらわれました。みんな店のほうへいって、そのへんには、だれもおりません。この女は、二―三日前に、明智小五郎がきて、主人と話していたとき、ドアのそとで立聞きした女中です。
 物置部屋から出てきたその女中は、古新聞でくるんだものを、ブラウスの下にかくして、ぬき足をして、そっと勝手口のほうへ歩いていきました。そして、そこでくつをはくと、そのまま裏通りへ出ていくのです。ブラウスの下にかくした新聞づつみの中には、いうまでもなく、たくさんの宝石類がはいっているのです。
 女中が、裏通りへ出たときに、その町を、ゆっくりすすんでいく、一台のからのタクシーがありました。女中は、いそいでタクシーをよびとめると、あたりを見まわしながら、それにのりこんでしまいました。
 それから三十分ほどのち、女中ののった自動車は、白鬚(しらひげ)橋をわたって、隅田(すみだ)公園のやみのなかに止まりました。女中はそこでおりて、まっ暗な立木のあいだへ、はいっていきます。
 そのとき、女中がおりたあとの自動車に、ふしぎなことがおこりました。車のうしろの荷物をいれるトランクのふたが、そっとひらいて、その中から、ひとりの少年がはい出してきたのです。少年は運転手のところへいって、なにか、ひとこと、ふたこと、ささやくと、そのまま女中のあとを追いました。
 その少年こそ、明智探偵の名助手の小林君なのです。小林少年は、明智先生のめいれいによって、知りあいのタクシーの運転手にたのんで、その後部のトランクに身をひそめたのです。そして、そのタクシーは、大賞堂の裏どおりを、しずかに行ったりきたりして、女中がよびとめるのを待っていたわけなのです。
 明智探偵は、女中が物置部屋から、新聞づつみの宝石をぬすみ出すことを、ちゃんと見ぬいていました。それで、小林少年に、そのあとをつけさせて、灰色の巨人のすみかを知ろうとしたのです。
 女中は、まっ暗な立木のあいだを、どんどん歩いていきます。小林君は、あいてに気づかれぬように、そのあとをつけました。
 百メートルほど歩くと、女中は立ちどまりました。そして、人待ち顔に、その暗いところに、じっと立っています。
 すると、木の枝をガサガサいわせて、そこのしげみの中から、なにものかがあらわれました。遠くの街灯の光が、かすかにてらしているだけですから、その人間の姿は、はっきりは見えませんが、ふつうの人間の倍もあるような、よく太った大きな男でした。うすいオーバーをきて、ソフトをかぶっています。
 女中はその大男に、宝石の新聞づつみを手わたすと、そのまま、もときたほうへもどっていきます。小林君は、見つけられてはたいへんですから、いそいで、そばの木のかげにかくれました。そして、これからどうしたらいいかと、ちょっと、考えましたが、女中のほうはかまわないで、新聞づつみを受けとった男を、尾行することにきめました。
 男はむこうのほうへ、大またに歩いていきます。小林君は、その十メートルほどあとから、見うしなわぬように、ついていくのです。
 少しむこうに、街灯が立っています。男がその街灯の下を通るとき、小林君は、男の姿を、はっきり見ましたが、ハッと、あることに気づいて、思わず息をのみました。
 その男の身についているものは、ソフトも、オーバーも、ズボンも、くつも、みんな灰色だったのです。男が横をむいたとき、チラッとその顔を見ましたが、この男は、顔までも灰色がかっていました。
 それに、おそろしく大きなやつです。ふつうのおとなの倍もあります。せいが高いばかりでなく、横はばもひろいのです。つまり、ひどく太っているのです。
「灰色の巨人だ。こいつこそ、灰色の巨人の首領にちがいない。」
 小林少年は、そう考えると、なんだか身がひきしまるように感じました。ところがそれからしばらくすると、じつに意外なことがおこったのです。
 大男が、とつぜん立ちどまりました。そして、いつまでも動かないのです。いや、そればかりではありません。大男が口をきいたのです。
「おい、きみも立ちどまってしまったじゃないか。どうして、ここへこないのだ。おれは、きみを待っているんだぜ。」
 むこうをむいたまま、からだにふさわしい太い声で、そんなことをいいました。
「きみ」というのは、だれのことでしょう。そのへんに人がいるはずはありません。こちらにかくれている小林少年のことです。大男は尾行されていることを、ちゃんと知っていたのです。
 小林君はギョッとして、やみの中に、立ちすくんでしまいました。あいては、そんな大きな怪物ですから、足もはやいでしょう。にげ出したって、すぐにおいつかれてしまいます。もうかくごをきめるほかはありません。
 小林君は、ぐっと下腹に力をいれて、木のかげからあらわれ、だいたんに、大男のほうへ、すすんでいきました。
「あははは……、とうとう、あらわれたな。きさま、明智小五郎の助手の小林だろう。タクシーのトランクに、かくれていたのか。おおかた、そんなことだろうとおもっていた。きみはこの新聞づつみがかえしてほしいのだろう。だが、このおれと、ちんぴらのきみとじゃ、勝負にならない。これをとりかえすことは、すっぱりあきらめるんだな。はははは……、きみはかわいい子だ。おれがかわいがってやるから、まあ、こっちへくるがいい。」
 大男はニューッと、大きな手をのばして、小林君の服のえりをつかみ、まるでネコでもぶらさげるように小林君をぶらさげて、のしのし歩きだしました。ざんねんながら、こんな巨人にかかっては、もうどうすることもできません。
 大男はそうして、隅田川のほうへおりていきました。そこは、船のつくところらしく、石の坂道が川の水面と、すれすれのところまで、ひくくなっています。
 見ると、そこの水面に、一そうのモーターボートがとまっていました。大男は小林君をぶらさげたまま、ひょいと、そのボートにのりました。
「さあ、これで、おわかれだ。宝石もかえさないし、おれのあとをつけることも、できなくしてやる。つまり、この勝負はおれの勝ちというわけだね。」
 大男は、そういうと、ボートの中から、手をのばして、小林君のからだを、そっと、岸の石だたみの所へおろしました。そして、ボートの中にあったステッキのようなもので、ぐっと石だたみをおすと、ボートは岸をはなれてしまったのです。
 小林君は、ざんねんでしかたがありません。このまま負けてしまっては、明智先生にも、もうしわけがないのです。小林君は、いきなり、大男によびかけました。
「おい、のっぽくん。きみは懐中電灯を持っているだろうね。それをつけたまえ。そして、新聞づつみをひらいて、中の宝石をよくしらべてごらん。その宝石はみんな、にせものだということが、わかるはずだよ。」
 大男は、それを聞くと、ギョッとしたように、こちらを見つめました。そして、いわれたとおり、懐中電灯をつけて、宝石をしらべているようすでしたが、やがて、「ちくしょう。」と、したうちをする声が聞こえてきました。
「きのどくだねえ。きみは明智先生の計略にかかったんだよ。先生は女中が立聞きしていたことをさとって、大賞堂の主人にぎゃくの手をつかわせたのさ。金庫のなかの宝石を、にせものと入れかえたようにおもわせて、じつは入れかえなかったのさ。新聞づつみの方がにせもので、ほんとうの宝石は、みんな、もとの金庫にあるんだよ。はははは……、どうだい、これでも、きみの方が勝ったといえるだろうかねえ。」
 小林君は、そういって、さもここちよげに笑うのでした。
 しかしこの勝負は、せっかく尾行した巨人に、にげられてしまったのですから、じつは五分五分なのです。
「ちくしょう、おぼえていろ。このしかえしは、きっとするぞ。」
 大男のくやしそうな声が、エンジンの音にまじって聞こえてきました。そしてモーターボートは、隅田川のやみの中へ消えていくのでした。
 大賞堂の店にあらわれた一寸法師は、いったいなにものでしょう。かれはどこからどうして、にげさることができたのでしょう。
 また、モーターボートでにげた大男は、はたして、灰色の巨人なのでしょうか。やがて、それらの秘密のとけるときがきます。

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