少年探偵団
大賞堂の事件があってから一週間ほどたった、ある日、園井正一君という中学校一年生の少年が、明智探偵事務所へ、助手の小林少年をたずねてきました。
園井少年は、小林君が団長をやっている少年探偵団の団員なのです。小林君は探偵事務所のじぶんの部屋へ、園井君をとおしました。
小林君の部屋は、三畳ほどのせまい洋室です。大きな机と本箱と、いすが三つおいてあります。ふたりは、そのいすにかけて話をしました。
「きみ、青い顔しているよ。なにか心配ごとでもあるの?」
小林君がたずねますと、園井少年は、
「うん、ひじょうに心配なことがあるんだ。それで、団長に相談にきたんだよ。」
といって、話しはじめました。
「ぼくのおとうさんが、こんばん、にじの宝冠を、十人ほどのお友だちに、見せることになっているんだ。その宝冠は、戦争のときから今まで、ずっと、いなかに疎開してあったんだが、それをこんど、うちへ持ってかえったんだ。そして、きょうは、ちょうど、おとうさんの誕生日だもんだから、十人ばかりお客さまがくる。みんなおとうさんのお友だちだよ。そのお客さまに、宝冠を見せることになっているんだ。」
「にじの宝冠って、なんなの?」
小林君がききますと、園井少年は目をかがやかせて、
「たいへんな宝物だよ。いまから百何十年まえに、ヨーロッパのある国の女王さまが、かぶっていたという王冠だよ。ぼくのおじいさまが、フランスの美術商からお買いになったんだって。ぼくのうちのたからものだよ。その宝冠には、ダイヤや、ルビーや、サファイアなんかが、たくさんはめこんであるんで、にじのように美しく光るんだ。だから、にじの宝冠っていうんだよ。」
園井君のおうちは、戦争のまえには、ひじょうなお金持ちでしたから、そういう宝物がのこっていたのです。
「ぼくが心配しているわけが、わかるだろう。ほら、灰色の巨人だよ。あいつは、宝石ばかり、ねらっているんだね。だから、こんや、あいつがやってきたら、たいへんだとおもうんだ。」
「だって、こんや、きみのうちで、宝冠を見せることは、お客さまのほかには、だれも、しらないんだろう?」
「しらないはずだけれど、でも、灰色の巨人は、魔法つかいみたいなやつだからね。かぎつけて、やってくるかもしれないとおもうんだ。いや、それよりもね、ぼくはきのうの夕がた、おそろしいものを見たんだよ。」
「え、おそろしいものって?」
園井少年は、さもこわそうに、あたりを見まわして、
「こわかったよ。まっかな太陽が、坂の上の空にしずみかけていたんだよ。ぼくは坂の下からのぼっていった。するとね、その坂のてっぺんの、まっかな太陽のまえに、おっそろしく大きなやつと、赤んぼうみたいな小さなやつが、ならんで、立っていたんだ。ひとりは西郷さんの銅像みたいなやつだよ。そして、もうひとりは、ちっちゃなこびとなんだよ。顔だけ大きくって、からだがあかんぼうなんだ……。わかるかい。大きいやつは、きみが隅田川であった灰色の巨人かもしれない。小さいやつは、あの一寸法師かもしれない。そのふたりが手をつないで、坂のてっぺんに、黒い影のように、ニューッと立っていたんだよ。ぼくは、ぞっとしていきなり、はんたいのほうへかけ出しちゃった。」
「その坂って、どこなの?」
「ぼくのうちの、すぐそばだよ。ほら、キリスト教会のある、あの坂みちさ。」
「ふうん、それじゃ、あいつは、もうきみのうちを、ねらっているのかもしれないね。」
「ぼくも、それがこわいんだよ。だから、ぼく、おとうさんに、こんばん宝冠を見せるのはおよしなさいって、いったの。でも、だめなんだよ。みんなにあんないじょうを出して、こんや見せるといってあるんだから、よすことはできないんだって。」
「あぶないね。十人のお客さまのなかには、巨人の手下がだれかにばけて、まじっているかもしれないからね。」
「ぼくも、おとうさんに、そういったんだよ。でも、おとうさんは、お客さまは、みんなよくしっている人だから、ごまかされる心配はない、だいじょうぶだっていうんだ。おとうさんは、ちっともこわくないんだよ。ぼくを、おくびょうものだってしかるんだよ。」
「わかった。きみがぼくに相談しにきたわけがわかったよ。少年探偵団を集めればいいんだろう。そして、きみのうちをまもればいいんだろう。」
「うん、そうなんだよ。ぼくがおくびょうなのかもしれないけれど、心配だからね。」
「よし、それじゃあ、なるべく大きい強そうな団員を六―七人集めよう。」
小林君は、応接間で、べつの事件の客と話をしている明智探偵のところへいって、部屋の外へよび出して、このことをつげますと、明智探偵は、
「きみがついてれば、だいじょうぶだとおもうが、団員の子どもたちに、けがなんか、させないようにね。もし、かわったことがあったら、すぐに、ぼくに電話するんだよ。」
と、ねんをおして、団員を集めることをゆるしてくれました。
それから、電話れんらくによって、六人の団員がくることになり、小林団長と園井君と、あわせて八人の少年探偵団員が、園井君のうちのまわりを、見まわることになりました。