消えた少年
それから、明智探偵と小林君が、園井正一少年をつれて、「にじの宝冠」を園井君のおとうさんのところへ返しにいくことになりました。
「園井君、どこにいるんだい、さあ、いっしょに、きみのうちへいこう。おとうさんは、きっと、よろこんでくださるよ。」
しかし、だれも、こたえるものがありません。
「園井君……。」
「正ちゃあん……。」
みんなが、声をそろえて、よびたてました。しかし、園井少年はどこにもいないのです。
「へんだなあ。どこへいったんだろう。みんな、懐中電灯をつけて、さがしてくれたまえ。」
小林団長の命令で、少年たちは、てんでに万年筆型の懐中電灯をつけて、そのへんを歩きまわりました。警官たちも、大きな懐中電灯で、森の中を、くまなくさがしました。しかし、園井少年はどこにもいないのです。
明智探偵のいうように、ほんとうの犯人が、ほかにいるとすれば、そいつが、やみにまぎれて、園井少年をさらっていったのではないでしょうか。もしそうだとすると、こんどは人間がぬすまれたのです。「にじの宝冠」どころのさわぎではありません。宝物はとりかえしても、だいじな正一君がいなくなったのでは、園井さんにもうしわけがありません。
そこで、中村警部は、近くの警察から、おおぜいの警官をよび集めて、探照灯まで持ちだして、神社の森や、そのまわりを、長いあいださがさせました。しかし、なんのかいもなかったのです。園井少年は、ついに発見されなかったのです。
明智探偵と中村警部は、園井君のおとうさんをたずねて、「にじの宝冠」を返し、正一君のゆくえ不明を伝えました。
「じつに、もうしわけありません。ぼくがついていて、こんなことになり、おわびのことばもありません。少年探偵団に、てがらをさせようとしたのが、いけなかったのです。まったく、ぼくのせきにんです。しかし、このおわびには、きっと、ほんとうの犯人をつかまえて、正一君をとりもどしますから、そのことは、ご安心ください。」
さすがの名探偵、明智小五郎も、この失策には、ただ、わびるほかはないのでした。
さて、そのあくる日、園井さんは、差出人の書いてない一通の手紙を、うけとりました。封をきって読んでみると、そこには、つぎのような、おそろしい文句がしるしてありました。
園井さんは、この手紙を見ると、宝冠をてばなすことに、かくごをきめました。いくら、たいせつな宝物でも、子どものいのちには、かえられないからです。
「灰色の巨人」は、明智探偵にも知らせてはいけないと書いていますが、園井さんはそれだけは、約束をやぶることにしました。こちらから、明智探偵の事務所をたずねたり、明智探偵に、うちへきてもらったりしたら、敵に感づかれるかもしれませんが、電話ならだいじょうぶです。電話だけで明智探偵に知らせて、名探偵の知恵をかりることにしました。