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天空魔人-被拐走的少年
日期:2021-12-11 23:33  点击:329

さらわれた少年


 そのあくる日から、あの大きな白犬は、村にいなくなってしまいました。犬のかい主は、ずいぶん、さがしまわったのですが、どうしても見つけることが、できませんでした。
 井上、野呂の二少年が、野天ぶろの帰りに見た、あの奇怪な事件は、けっして夢でもまぼろしでもなかったのです。巨人の腕は、ほんとうに、森の中へおりてきて、白犬をつかみあげていったのです。
 でも、犬だったから、まだしあわせでした。もし、あのとき、井上君か、ノロちゃんか、どちらかがつかみあげられたら、どうだったでしょう。ふたりとも、それを考えると、ゾーッと、背中が寒くなるのでした。
 巨人の腕は、動物や、畑のものをつかんでいくばかりで、人間はまだひとりも、やられていません。村の人たちは、いくら魔ものでも、人間には、おそれをなしているのだろうと、うわさをしていました。
 ところが、白犬の事件から二日めの朝になって、巨人は、けっして、人間にえんりょなんかしていないことが、わかったのです。とうとう、人間がやられたのです。
 矢倉温泉の近くに住んでいる、佐多(さた)という農家に、十二歳になる幸太郎(こうたろう)という男の子がありました。その幸ちゃんが、きのうから、ゆくえ不明になっていました。
 幸ちゃんは、わんぱくもので、一日じゅう外で遊んでいる子でしたから、夜になるまでは、おとうさんも、おかあさんも、心配しませんでしたが、暗くなって、だんだん夜がふけても帰ってこないので、大さわぎになりました。
 お友だちのうちや、ほうぼう聞きあわせましたが、どこにもいません。警察分署にもとどけました。
「ひょっとしたら、巨人の腕に、さらわれたんじゃあるまいか。」
 そんなことをいいだす人もありました。村には、むかしから、てんぐにさらわれるという、いいつたえがありました。羽のはえた、てんぐという怪物が、空から舞いおりてきて、子どもをさらっていくというのです。
 としよりの人たちは、巨人の腕を見たわけではありませんので、そんなへんなものよりも、まず、てんぐのことを考えました。そして、幸ちゃんは、てんぐにさらわれたのかもしれないと、うわさをするのでした。
 ところが、けさになって、その幸ちゃんが、ヒョッコリ帰ってきたのです。しかし、ふつうの帰りかたではありません。村はずれの、山の登り口に、大きな森があります。その森の、高いシイの木の枝の上に、ひっかかっていたのです。
 ひっかかるというのは、へんですが、たしかに幸ちゃんは、その高い枝の上に、横になって、のっかっていたのですから、下から見ると、ひっかかっているように見えたのです。
 村の人が、朝はやく、その森をとおりかかると、上の方で、ワーン、ワーンと、こどもの泣き声がするので、びっくりしてさがしてみると、高い高い木の上で、幸ちゃんが泣いていることが、わかったのです。
 そこで、村のきこりの、木のぼりの名人をよんできて、やっと幸ちゃんを、木の上からおろすことができたのですが、それを見ると、おかあさんは、ワッと泣きだしてしまいました。それほど、幸ちゃんは、ひどい姿になっていたからです。
 服は、やぶれて、どろまみれになり、顔はどろと血で、おそろしくよごれ、手足は、きずだらけになっていたのです。
 すぐに、うちへ連れ帰って、きずの手あてをしたり、ふろに入れたりして、やっと、おちついたときに、みんなで幸ちゃんをとりかこんで、たずねてみますと、幸ちゃんは、きのうの夜から今までのことを、ぼつぼつ話しました。
 幸ちゃんは、きのうの夕がた、友だちといっしょに、山の方へ遊びにいっていたのですが、みんなとけんかして、ひとり山にのこっているうちに、日がくれてしまったのです。
 あたりがまっ暗になったので、いそいで、うちに帰ろうと山をおりてきますと、とつぜん、サーッと、風がふいてきて、雲の中から、大きなマツの木のようなものが、落ちてきたというのです。
八幡(はちまん)さまのマツよ。あれの三倍も、太かったぜ。そんでね、そのマツに指が五本はえてただ。一本の指が、お寺のはしらくれえ、あったぜ。その指が、おらの目の前で、モジャモジャ動いてたが、ギャッと、つかみかかってきた。そんでね、おら、空さ、舞いあがっちまったのよ。目がまわって、なにがなんだか、わかんなくなっちまっただ。」
 幸ちゃんは、そんなふうに話しました。この少年は、日ごろから、つくり話がうまく、また、その話しかたが、じつに、じょうずでしたが、こんどは、つくり話ではありません。ひと晩、うちに帰らなかったうえ、これほどひどいけがをして、子どもには、とてものぼれないような高い木の上に、ひっかかっていたのですから、だれも幸ちゃんの話を、うそだと思うものはありませんでした。
 巨人の腕に、つかみあげられたときは、目がまわって、気をうしなってしまったが、ふと、目を開くと、高い空を、ヒューッ、ヒューッと、風のように、とんでいることがわかったそうです。
「きっと、巨人が手をふって、ノッシ、ノッシと歩いていたんだぜ。そんだから、巨人が手をふるたびに、おらのからだは、ヒューッと、前にいったり、ヒューッと、うしろへもどったりしたんだ。でっけえぶらんこに、乗ってるみてえだったぜ。」
 幸ちゃんは目をまんまるにして、そのときのこわかったようすを話すのでした。
 人間の何百倍もある巨人が、ノッシ、ノッシと歩いていく。その手に幸ちゃんが、つかまれている。なんという、おそろしいめにあったものでしょう。考えただけでも、気がとおくなるではありませんか。
 空には、まるで銀の砂をまいたように、いっぱい星があったといいます。ゆうべは、空いちめんに、くもっていたのに、どうして星が見えたのでしょう。それは、巨人のせいが高いので、からだの半分が、雲の上に出ていたためかもしれません。また、下の方を見ると、まっ暗な中に、ところどころ、火の粉をこぼしたような、赤い光のかたまりが見えたそうです。それは、町や村の電灯の光だったのでしょう。
「おら、飛行機に乗ったことねえけんど、飛行機に乗れば、あんなふうにちげえねえ。おっかねえけんど、おもしろかったぜ。もう一度、巨人につかまれてえな。」
 幸ちゃんは、だんだんちょうしにのって、そんなことまでいうのでした。それから、さんざん空をとびまわったあとで、森の木の上におとされたのだそうです。つかまれていた巨人の手が、パッと開いて、幸ちゃんのからだは、まるで石でも投げたように、ヒューッと風を切って、下界(げかい)へ落ちてきたのです。そのとき幸ちゃんは、また気をうしなってしまいました。
 二度めに気がついたときには、森の木のてっぺんに、ひっかかっていたのです。もう夜明けでした。巨人につかまれているあいだは、さけぶことも、ものをいうこともできなかったのですが、そのとき、やっと声が出るようになりました。そこで、幸ちゃんは、死にものぐるいの声を出して、泣きさけんでいたというのです。

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