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天空魔人-少年名侦探
日期:2021-12-11 23:35  点击:331

少年名探偵


 そのあくる日の夕がたになっても、貨車紛失事件には、なんの新しい発見もありませんでした。さすがに警察分署長は、巨人の腕などという、怪談を信じていたわけではありませんから、本署とも連絡して、手をつくして、捜索したのですが、まったく手がかりがないのです。
 その夕がた、分署長の波野(なみの)警部補は、トキワ館の近くに用事があったので、その帰りにトキワ館にたちよって、応接間で主人と話しこんでいました。
「なんどいっても同じことだが、こんなふしぎな事件は、生まれてはじめてですわい。貨物列車のまん中の、一両だけが消えてなくなるなんて。しかも、あの列車は、横目駅を出たのも、矢倉駅についたのも、時間表のとおりで、一分も、おくれちゃいない。貨車をとりはずすひまなんか、ぜったいになかったのじゃ。じつに、またふしぎな事件ですよ。どうやら、わしも、巨人の腕というやつを、信じそうになってきましたわい。」
 分署長は、井上少年のおじさんのトキワ館の主人とは、()の友だちでたいへんなかよしでしたから、なんのかくしだてもしないで、ぐちをこぼすのでした。
「いや、おさっししますよ。日ごろは平和な村で、事件がなくてこまるほどだが、こんなとほうもない大事件がおこっては、あんたも、たいていじゃありませんな。」
「うん、いなかの分署長には、手におえませんわい。警視庁の名探偵でも、きてくれなくっちゃね。ハハハ……。」
 分署長の波野さんは、お茶をすすりながら、にが笑いをするのでした。
 そこへ、バタバタと、あわただしい足音がして、井上少年がかけこんできました。
「おじさん、わかりましたよ。ぼくらの団長の小林さんが発見したんです。幸ちゃんってこどもね、あの子はわるものに、お金をもらって、みんなをだましていたんです。いまここへつれてきますよ。」
「え、なんだって? 幸ちゃんが、うそをついていたんだって?」
 おじさんと分署長の波野さんは、顔を見あわせて、おどろいています。
 そこへ小林少年とノロちゃんが、あの森の木のてっぺんに、ひっかかっていた幸ちゃんというこどもをつれて、はいってきました。
「うん、佐多の幸ぼうじゃね。どうしたんじゃ。きみが、うそをついていたというのは、ほんとうか。」
 波野さんが、やさしくたずねました。幸ちゃんは、制服姿の警部補を、じろりとうわ目で見て、うつむいてしまいました。そして、クシュン、クシュンと、鼻をすすって、だまりこんでいます。人の心を見ぬくことになれた波野さんには、幸ちゃんが、うそをいっていたということが、すぐにわかりました。
 幸ちゃんがだまっているので、小林君が、わけを話しました。
「幸ちゃんは、うそつきの名人だそうですね。でも、こんどは、一晩、うちへ帰らなかったし、あんな高い木の上で泣いていたので、みんながほんとうだと思ったのです。だまされてしまったのです。ぼくは、井上君とノロちゃんが、白犬が空にのぼっていくのを見たときから、考えつづけていました。明智先生のやりかたをまねて、いっしょうけんめいに考えたのです。そして、巨人の腕の秘密を、といたのです。」
「なに、きみが、秘密をといたって?」
 分署長さんは、信じられないというような顔つきで、小林君を見つめました。
「ええ、とけたつもりです。巨人のうわさは、みんな、つくり話です。わるものが、村の人たちをだましていたのです。
 その秘密をとくのには、子どもの幸ちゃんをときふせて、はくじょうさせるのが、いちばん早道(はやみち)だと思いました。それでぼくは、きょう、お昼すぎに幸ちゃんをつかまえて、長い時間かかって、やっと、はくじょうさせることができたのです。
 ぼくは、持っているだけのお金をみんなやるからといって、幸ちゃんにたのみました。もし幸ちゃんが、うそをいってるのだったら、別荘のおじさんに、何千万円という、損害をあたえるばかりでなく、警察や、鉄道や、村の人みんなに、どれほどめいわくをかけるかわからない。きみが、はくじょうしても、けっして、みんなが、しからないようにたのんでやるから、といって、いっしょうけんめいに、ときつけたのです。」
「うん、えらい。さすがは明智先生の弟子じゃ。それで?」
 分署長さんは、感心したように、ことばをはさみました。
「幸ちゃんは、二時間ぐらいたって、やっとはくじょうしました。わるものに、たくさんお金をもらって、あんなおしばいをやったのです。あの晩は、近くのお百姓の納屋の、わらの中で寝たんだそうです。そして、夜明けまえに、わるものに手つだってもらって、あの高い木のてっぺんへ、あがったのです。そのときわるものが、幸ちゃんの顔や手に、どろをぬったり、きずをつけたりしたんだそうです。そのまえに、幸ちゃんが空をとんだというのは、みんな、わるものに教えられた、つくり話だったのです。……幸ちゃん、ぼくがいまいったこと、ちがっていないね!」
 すると、幸ちゃんは、うつむいたまま、また、クシュン、クシュンと、鼻をすすりながら、二度もうなずいてみせました。
「ふうん、そうだったのか。分署長のわしがそこへ気がつかなかったとは、じつにもうしわけがない。小林君、お礼をいいます。よくそこまでやってくれた。」
 波野さんは、人のよい笑い顔で、心から小林君をほめてくれるのでした。そのとき、井上君のおじさんのトキワ館の主人が、口をはさみました。
「さすがは、少年探偵団の団長だね。おじさんも感心したよ。それじゃ、ほかのことも、きみには、わかっているんだろうね。ニワトリが盗まれたことだとか、牛が足をおったことだとか、畑に、大きな穴があいていたことだとか、それから、きみたちのうちふたりが見た、白犬が、つかみあげられたことだとか……。」
「みんな、うそっぱちですよ。」
 小林君が、そくざにこたえました。
「ニワトリは、ちょうど巨人の腕がやぶりでもしたように、鳥小屋を大きくやぶって、盗んでいっただけですし、牛は、ただ、なにかで足をなぐって、立てないようにして、空からおとされたように見せかけたのだし、畑も、シャベルかなんかで、巨人がつかみとったようなあとをつけたのですよ。
 それから、井上君とノロちゃんが見た白犬も、手品だったのです。きっと、こんなふうにやったのだと思います。わるものが白犬をつかまえて、黒い、ほそいひもか、針金でしばり、自分はあの森の、いちばん高い木のてっぺんにのぼって、ふたりが通りかかるのを待ちかまえていたのです。そして上からひもを引っぱって、白犬をつりあげて見せたのです。だから、井上君にもノロちゃんにも、巨人の腕は見えなかったはずです。気のせいで、なんだか黒い腕のようなものが見えたと思ったばかりですよ。ふたりとも巨人の腕の話をうんと聞かされていたので、うまくごまかされたのです。わるものは、ぼくたちに、あの白犬のつかまれているところを見せれば、こわくなって、早く東京へ帰るだろうと、思ったのでしょう。」
「ふうん、じつによく、すじみちがたっている。明智先生は、いい弟子を持たれたなあ。東京には、こんなかしこい子どもがいるかと思うと、いなか署長は顔まけじゃ。ウフフフ……。」
 波野さんは、つくづく感じいったという顔つきで、また小林君をほめあげましたが、ことばをつづけて、
「ところで、そうなると、わしとしては、犯人をつかまえなければならん。小林君、きみは犯人を知っとるのかね。すくなくとも、幸ぼうは、犯人にたのまれて、ああいうことをやったのだから、犯人の顔を見ているはずじゃが……。」
 これにも小林君は、すぐこたえました。
「犯人は変装していたと思います。ですから、幸ちゃんにもわからないのです。ぼくも、たしかなことはいえません。でも、あれではないかという、容疑者はあります。」
「なに容疑者まで、わかっとるのか。」
 波野さんはもう、感心どころではありません。すっかり、おどろいてしまいました。
「まだいまのところ、うたがいだけです。ほんとうのしょうこはありません。でも、早くその容疑者をつかまえて、しらべてみる値打ちはあると思います。ですから、分署長さんだけに、お話します。もし、まちがっていたら、その人にもうしわけありませんからね。」
「いや、まいった、おとなもおよばぬ心づかいじゃ。小林君、わしは、年はきみの三倍もあるが、これからきみの弟子になりたいもんじゃね。うん、よしよし、廊下へ出て、そっと、きみの話を聞きましょう。」
 そしてふたりは、なかのよい親子のように、廊下へ出ていきましたが、しばらくすると、波野さんは小林君の手をひいて、にこにこしながら、もどってきました。
「小林君は、重大なしょうこを、わしにくれました。それは、小林君が自分でとった、ある人物の写真じゃが、くわしいことは、まだいわないでおきましょう。ね、それがいいね、小林君。」
 波野さんは、目じりに、いっぱいしわをよせて、かわいくてたまらぬというように、小林君の顔を見るのでした。
「ええ。」
 小林君も、ニッコリして、分署長さんを見あげました。
 ちょうどそのとき、げんかんのほうに、あわただしいくつ音がして、
「分署長さんは、こちらへきておられませんか。」
という声が、聞えてきました。
「ここにおいでじゃ。どなたです。」
 井上君のおじさんがどなりますと、ひとりの警官が、応接間へとびこんできました。分署の警官です。
「分署長さん、たいへんです。あの貨車が見つかりましたっ。」
 まだ若い警官は、暑くもないのにまっかな顔をして、汗を流しています。

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