たるの中
また、トンネルのような穴を、五メートルほどすすむと、小さなドアがあって、べつのへやに出ました。さっきと同じぐらいの、コンクリートかべの、せまいへやです。
「あっ、いけない。また、ドアがしまっちゃった」ポケット小僧がさけびました。いま、はいってきたドアが、いつのまにか、ぴったりしまって、いくら引いても、開かないのです。
「あははは……」どこかから、わらい声が、ひびいてきました。さっきのじいさんではありません。もっとしっかりした声です。
「そのドアは、もう開かないよ。きみたちは、とりこになってしまったのだ。きみたちに、見せるものがある。ほら、ここだ。へやのすみだ。大きなたるがおいてあるだろう。見えたかね。そのたるの中に、なにがはいっていると思うかね。うふふふふ……」
天井から、小さなはだか電球がさがっていて、へやの中を、ぼんやりと照らしています。そのへやのすみに、ビールだるのようなものが立ててありました。ほかには、なんにもなくて、たるだけが、ぽつんと、置いてあるのです。
二少年は、そのみょうなたるを見て、顔を見あわせました。
「なにがはいっているんだろう。……あっ、ひょっとしたら……」
井上君が、言いかけて、息をのみました。
「うん、そうかもしれない。さっきの女の子があの中に……」
ポケット小僧も、ちゅうとで、ことばをきりました。
たるの中に、あのかわいい女の子が、手足をしばられて、おしこめられているすがたが、まぼろしのように見えてくるのです。
いや、もしかしたら、あの女の子は、もうころされてしまったのかもしれません。そして、その死がいが、たるにつめてあるのかもしれません。ふたりは、そう思うと、まっさおになってしまいました。
「うふふふ……なにを考えているんだ。早くたるをあけてごらん。中から、なにが出てくるか……」また、あの声が聞こえてきました。
「よしっ、調べてみよう」
井上君が、勇気をふるって、たるのそばへ近よっていきました。そして、両手でいきなり、たるをごろっところがしたのです。すると、ふたがとれて、中から、ぱっと、ひとかたまりの青黒いものが飛びだしてきました。もつれあった、なわのようなものです。「あっ、へびだっ」ポケット小僧が、さけびました。
たるの中には、何百ぴきというへびが、とじこめてあったのです。
それが、いっぺんに、ゆかにあふれ出すと、一ぴき、一ぴきにわかれて、かまくびをもたげて、赤黒い舌を、ぺろぺろさせながら、こちらへ、はいよってくるのです。
「わあっ、助けてくれえ……」ポケット小僧は、大たんなこどもですが、へびはだいきらいでした。悲鳴をあげて、へやのすみへ、ちぢこまってしまいました。
「だいじょうぶだよ。毒へびじゃないよ。みんな青大将だよ」井上君は、まっさきに進んできたへびのしっぽをつかむといきなり、風ぐるまのように、ふりまわしはじめました。さすがに、井上少年は、へびなんかへいきなのです。