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影男-斗者(3)
日期:2022-02-13 23:47  点击:314
  二青年はパッと左右に分かれて、またをひろげ、両のこぶしを握って、仁王立におうだちににらみ合った。

 覆面の婦人たちは、シーンと静まり返って、身動きをするものもなかった。ある覆面の下では、すでに呼吸が激しくなっていた。
 長い長いにらみ合い。そのあいだに、両青年の筋肉ははち切れそうに緊張していった。ついに機が熟した。双方から恐ろしい勢いで突進した。肉弾が激しくぶつかり合った。
 はじめは、拳闘めいた突き合い、なぐり合いであった。筋ばった四本の腕が交錯して、ピストンのように活動した。「白」のほおに最初の血が流れた。「黒」も目の下を傷つけられた。
 相手のこぶしを避けるために、肉団は期せずして接近した。組みうちとなった。「白」の腰投げがきまって、「黒」はじゅうたんの上に、のけざまに倒れた。「白」がその上にのしかかった。戦いはレスリングの様相を呈してきた。
 押えこみ、はねかえし、もつれ合ってゴロゴロところげまわり、二本の足がさかだちをして相手の顔をはさみ、しめつけ、ふりほどき、上になり、下になり、横転し、逆転し、そのたびごとに、二つの肉団のあらゆる部分が、筋張り、ふるえ、躍動した。
「白」が上に「黒」が下に、おさえこみの長い時間、巨大な桃尻(ももしり)がモクモクと揺れ、ももと腕の筋肉がかたまりとなってグーッと上下に移動し、全身が緊張の極度にブルブルと震えた。もう二つの肉塊は汗にまみれてつかむ手がすべるほどテラテラしていた。二百ワットの電光に、そのキツネ色と桃色の膚が美しく輝いてみえた。
 覆面の見物たちは、はじめのうちは、一種の恐怖のためにわなわな震えているものがあったが、そういう人々も、いつしか恍惚境(こうこつきょう)にはいっていた。全身が汗ばみ、ほおはほてり、心臓は異様に鼓動していた。団員は年配の婦人ばかりではないのであろう。われわれは、影男とその愛人との会話によって、三十に満たない琴平咲子という女性もその一員であることを知っているが、彼女が最年少者とはきめられない。目と口と三つの穴のある奇怪な黒覆面の陰には、どんな顔が隠されていることであろう。それらの顔が、全裸の美青年の、この物狂わしき熱闘を見て、どのような表情をしていることであろう。
 闘士はふたたびサッと左右に別れて立ち向かった。そして、キツネ色と桃色の肉団が、追いつ追われつ、地下室の壁から壁へ、縦横にはせ違った。覆面の人々はそのたびに悲鳴をあげて身をよけたが、ときには肉団の体当たりを食って倒れるものさえあった。
 ツバメのように飛びかう肉塊、逃げまどう覆面婦人、地下室はわきたぎる(かなえ)の混乱となり、その中に闘士のゼイゼイという息づかいと、けもののような怒号、婦人たちの歓喜と恐怖の叫び声が満ちあふれた。
 またもや、こぶしの突き合いとなった。グワンというアッパーカット、向こうの壁までふっ飛ぶ肉団、その反動で、足から先に飛び返り、その足が相手の腹をけって、逆に相手が反対側の壁にぶっつかる。
 一転して接近戦となれば、顔といわず、胸といわず、腹といわず、双方のこぶしが機関銃のように突きまくり、キツネ色の皮膚にも、桃色の皮膚にも、無数の傷口がひらき、全身に網目の血の川が流れた。
 そのからだで、またしても上を下への組み打ちとなる。たまりかねた覆面婦人たちの悲鳴のような声援が、「ブラック!」「ホワイト!」と交錯し、地下室はむせ返る熱狂の極点に達し、ある婦人たちは、いまにも失神せんばかりのありさまであった。
 格闘一時間二十分。闘士たちは、もう足もとも定まらず、よろめいていた。目は流れこむ血に視力も弱り、口は大きくひらいたままヒューヒューという音をたて、肩と胸は瀕死(ひんし)に波打ち、足はガクンガクンして、しばしばつまずき倒れた。
 しかし、まだ勝負はきまらない。

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