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犬神家族-第五章 唐櫃の中(3)
日期:2022-05-31 23:59  点击:255
事件はまた珠世を中心として起こった。
お通夜がお開きになると、珠世はすぐに自分の居間へかえってきた。言い忘れたが珠世
の居間も、母屋から廊下つづきの離れになっているのだが、この離れも松子夫人や佐清の
住んでいる離れと同じように、五間から成り立っており、別に玄関と浴室とを持っていた。
ただ佐清の離れとちがうところは、このほうは主として洋風につくられているのである。
珠世はもう数年来、猿蔵とふたりでこの離れに住んでいるのである。
さて、珠世が離れへかえってくると、そのあとを追っかけるようにして、佐武の妹の小
夜子がやってきた。なにか話があるというのである。朝からのうちつづく緊張に、珠世は
すっかりくたびれたので、お湯にでも入って、一刻も早く寝たかったのだが、話があると
いうものを、追いかえすわけにはいかなかった。そこで小夜子を、居間へ通したというの
だが、そこでふたりのあいだに、どういう話があったのか。
「私はただ、お兄さんのことを聞きたかったのです。お兄さんは殺される直前に、珠世さ
んに会ったと聞いたものですから、そのときのことについて、珠世さんからじかに聞きた
かったのです」
翌日警官から取り調べられたとき、小夜子はそのおりのことについて、そう述べている
し、珠世もまた、そのとおりだと保証しているが、しかし、ふたりの話がそれだけではな
かったろうことは、少しでも、ちかごろの犬神家の内情を知っているものなら、察しがつ
くはずである。
小夜子は珠世の腹をさぐりに来たのだ。珠世が佐智のことを、どういうふうに考えてい
るのだろうかと。……
小夜子は|不《ふ》|憫《びん》な娘である。彼女はけっして醜い女ではない。いやい
や、彼女ひとりを見ていれば、けっこう、十人並み以上の美人なのである。しかし、同じ
屋根のもとに、珠世という美人がいるゆえに、珠世という、ほとんど比類のない麗人がい
るゆえに、彼女の|美《び》|貌《ぼう》もいちじるしく、割り引きされてしまうのであ
る。ちょうど月のまえの星が、かがやきを失うように。
しかし、佐兵衛翁の遺言状が発表されるまでは小夜子もそれほど、珠世に対してはひけ
めを感じていたわけではない。いやいや、珠世なんか眼中になかったといったほうが正し
かろう。
なるほど珠世は美しい。しかし、彼女はすかんぴんの孤児ではないか。他人の情によっ
て生きている|居候《いそうろう》ではないか。それにひきかえ、なるほど自分は、美し
さにおいては珠世に劣るかもしれぬ。しかし、それをつぐのうてあまりあるものを、身に
そなえているはずだ。すなわち、佐兵衛翁の孫という身分、いつか|莫《ばく》|大《だ
い》な財産のわけまえに、あずかるだろうという保証。だから、男のまえに、自分と珠世
をならべてみせたら、よほどの馬鹿でないかぎり、自分をえらぶにちがいない。……小夜
子は固くそう信じて疑わなかったし、事実、佐智は|躊躇《ちゅうちょ》なく、彼女をえ
らんだのであった。
どういうものか、小夜子は小さいときから、従兄の佐智が好きだった。長ずるに及んで
その感情は、しだいに恋情にかわっていった。それに対して、佐智のほうはどうであった
ろうか。かれもまた、小夜子がきらいでなかったことはたしかである。
しかし、その感情が小夜子ほど、切実であったかどうかは疑問である。しかし、それに
もかかわらず、佐智は彼女の恋をうけいれたのである。|狡《こう》|猾《かつ》な佐智
の両親は、犬神家の財産を、少しでもよけいにかき集めるためには、息子と小夜子を結婚
させたほうがよいと考えたらしく、むしろ進んで小夜子のごきげんをとり、息子を説伏さ
せたのであった。
ところがいまや事態は一変した。金の卵をうむ鶏だと思っていた小夜子は、なんの価値
もない女だということがわかり、それに反して、いままで|歯《し》|牙《が》にもかけ
なかった珠世が、急に後光をおうてうかびあがってきたのである。軽薄な佐智親子が小夜
子に対して、|掌《てのひら》をかえすように冷たくなったのも無理はない。そしていま
や佐智は、珠世に対して、見苦しいほどしっぽをふりはじめたのだ。
小夜子が珠世に会いに来たのは、この問題に関して、珠世の心を打診するためであった
ろう。そのことは、小夜子にとって、耐えがたいほどの屈辱だったにちがいない。それに
もかかわらず、小夜子が来ずにいられなかったのは、今朝来、身も心も細るほどの心痛と
懸念に悩まされていたからである。
佐武が死んだいまとなっては、珠世が佐智をえらぶかもしれぬという公算が、非常に大
きくなったわけだ。なぜといって、残されたふたりの候補者のうち、佐清はあのとおり、
眼もあてられぬほど、おぞましい顔になっているのだから。
だが、しかし、珠世の居間でふたりの女のあいだに、どのような会話がかわされたか、
それを知ることは永遠に不可能であろう。小夜子にそれを語らせるのは、石地蔵に物をい
わせるより困難だろうし、珠世とてもたしなみのある女性ならば、小夜子の恥辱になるよ
うなことをしゃべるはずはないからである。
それはさておき、珠世と小夜子の話は半時間ほどで終わった。珠世は小夜子を送り出す
と、すぐ居間のつづきになっている寝室のド?をひらいた。言い忘れたが、珠世の居間も
寝室も洋風になっており、寝室には居間へ通ずるド?よりほかに、どこにも出入り口はな
いのである。
珠世は一刻も早く、横になりたかったので、小夜子を送り出すと、すぐに寝室のド?を
ひらき、壁際にあるス?ッチをひねって、電気をつけたが、そのとたん、恐ろしい悲鳴が、
のどをついて出たのである。
そのときのことについて、珠世は翌日、橘署長の問いに対してこう語っている。
「ええ、そうです、ス?ッチをひねって、電気をつけたとたん、だれかが寝室のなかから
とび出してきたのです。なにしろあまりとっさのことで、詳しいことはわかりませんでし
たが、ええ、そう、たしかに兵隊服を着た男でした。戦闘帽をまぶかにかぶり、|襟《え
り》|巻《ま》きで顔をかくして……それですから、ギラギラ光るふたつの眼だけが、い
までもはっきり印象に残っております。それがまるで、黒いつむじ風みたいに、さっと私
におどりかかってまいりまして……私は思わず悲鳴をあげました。するとその男は、私を
そこに突きとばしておいて、居間からさっと、廊下のほうへとび出していったのです。そ
れからあとのことは、ほかのかたに、お聞きになったとおりでございます」
「ところで珠世さん、その男ですがねえ、そいつはどうして、あなたの寝室になどかくれ
ていたのでしょう、それについて、なにかお心当たりはありませんか」
橘署長の問いに対して、珠世はつぎのように答えている。
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