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犬神家族-第五章 唐櫃の中(5)
日期:2022-05-31 23:59  点击:264
「どうしたんだ。いまの声はなんだ」
寅之助がかみつきそうに尋ねた。
「なんだかわかりません。ひょっとすると、佐清君じゃないかといってるんです」
佐智が答えた。それからまた一同は、展望台のほうへ走っていった。
悲鳴の主は果たして佐清だった。かれは展望台の階段の下に、ながながと伸びていたの
だが、最初にそれにぶつかったのは珠世であった。彼女はつまずいてよろめきながら、
「あっ、ここにだれかひとが……猿蔵、懐中電気を見せて」
言下に懐中電気の光が、さっと佐清の顔を照らしたが、そのとたん、一同は思わずあっ
と叫んで、あとじさりしたのである。
佐清は死んでいるのではなかった。強い?ッパーカットをくらって、気を失っていたの
だが、倒れるはずみに仮面がとんだと見えて、そこに露出しているのは、おおなんという
恐ろしい顔! 鼻から|両頬《りょうほお》へかけて、|柘《ざく》|榴《ろ》のように
はじけて、くちゃくちゃにくずれた赤黒い肉塊!
小夜子はそれを見ると、キャッと叫んで眼をおおうたが、珠世はそれと反対に、なぜか
しら、|瞳《ひとみ》をこらしてその恐ろしい顔に見いっているのであった。
佐智|爪《つめ》を|磨《と》ぐ
その翌日、犬神家へ呼ばれて、橘署長から昨夜の出来事を聞かされた金田一耕助は、非
常に考えぶかい眼つきになっていた。
「署長さん、それで佐清君はなんといってるんです」
「佐清はね、珠世の悲鳴を聞いてとび出したところが、だれかが展望台のほうへ行くのが
見えた。そこであとを追っかけていったところが、あの階段の下で、いきなりぶん殴られ
たといってるんですよ」
「なるほど」
「それでね、佐清は今朝はすっかりしょげかえっています。なぜといって、気を失ってい
るあいだに、あの醜怪な顔を、思う存分、ひとに見られたわけですからな。余人はともか
く、珠世に見られたのは、佐清としてもさぞ痛手だったろうと思いますよ」
「ところで署長さん、その兵隊服の男の行方というのはわかりませんか」
「いまのところまだわかりません。しかし、なあに、どうせ狭い町のことですから、いま
に突きつめてごらんにいれますよ」
「その男が忍びこんだという|痕《こん》|跡《せき》はあるのでしょうね」
「ええ、それはあります。珠世の居間にも寝室にも、べたべたと泥靴の跡がいっぱいつい
ているんです。しかし、建物の外部となると、これが非常にむずかしいんで……なにしろ
昨夜はあのとおり、まだ雨が残っていましたから、足跡もすっかり洗い流されて、おかげ
で、どっから忍びこんで、どっちへ逃げたかさっぱりわからんのです」
金田一耕助はだまってしばらく考えていたが、やがてゆるく頭髪をかきまわしながらこ
んなことをいった。
「署長さん、とにかく昨夜の一件は、われわれにとって、非常に重大な意味を持っている
と思いますね。顔をかくした復員風の男……こういう人物が、いま犬神家に住んでいるひ
とびととは別に、ちゃんと存在していることが、これでハッキリ証明されたわけです。そ
れはわれわれが考えたように、いまこの家に住んでいるだれかの、一人二役などではけっ
してなかった。そういうやつがそういうやつで、別にちゃんと存在していることが、これ
でハッキリわかったわけです」
「そう、私もそれは考えたが、しかし、金田一さん、いったいそいつは何者なんです。こ
の事件でいったい、どのような役割をしめているんです」
金田一耕助はかるく首を左右にふった。
「それは私にもわからない。それがわかれば、あるいはこの事件はかたがつくのじゃない
でしょうか。しかし署長さん、いずれにしてもその男は、犬神家のなにかふかい縁故のあ
る人物にちがいありませんよ。宿帳に犬神家の東京の家の番地を書いているくらいだし、
昨夜は昨夜で、珠世さんの部屋をちゃんと探しあてている。……」
署長はドキッとしたように、金田一耕助の顔を見直すと、
「なるほど、するとそいつはこの屋敷の構造に、かなり精通しているということになりま
すな」
「そうですよ。ところでこの家ときたら、ごらんのとおり、実に複雑怪奇な建て方になっ
ているんですからね。ぼくなど、二度や三度来たくらいじゃ、とてもこの家の地理はわか
りません。もしそいつがはじめから、珠世さんの部屋にねらいをつけてきたのだとしたら、
そいつはよっぽど、この屋敷の地理に詳しいわけです」
橘署長はだまって考えていたが、やがて音を立てて大気を吸いこむと、自分で自分にい
いきかせるように、力強くいい放った。
「なあに、それもこれも、そいつをつかまえてみればわかることだ。そうだ、問題はそい
つをつかまえることですよ。われわれはいままで、ひょっとすると、そいつはこの家のだ
れかの一人二役じゃないかと思っていたもんだから、つい捜査にも手抜かりがあったが、
なあに、こうハッキリしてくれば、きっといまにとらえて見せます」
しかし、事実はなかなか署長の思うようにはならなかったのである。
あの顔をかくした復員風の男は、いったい、どこから来てどこへ去ったのか、警察の必
死の捜索にもかかわらず、その後、|杳《よう》として不明なのである。
いや、その男がどこから来たのか、それは間もなくわかった。
十一月十五日――すなわち佐武の殺された日の夕方ごろ、そういう風体の男が上那須で
汽車からおりるのを見たという人はかなりたくさんあった。その列車は東京発の下り列車
だったから、その男もおそらく東京からやってきたのだろう。さらにその男が、上那須か
ら下那須のほうへ、トボトボと步いていくのを見たという証人もかなりたくさんある。
これらのことから考えると、その男がほんとうに用事のあったのは、上那須だったと思
われる。下那須には下那須で、ちゃんと駅があるのだから、そちらに用事があるのなら、
下那須まで乗っていったはずだ。それにもかかわらずその男は、わざわざ下那須まで步い
ていって、柏屋へ泊まっているのだが、それはおそらく、上那須の宿屋で、なにか都合の
悪いことがあったのだろう。
さて、柏屋を出たのち、その男の姿を見たものも数名あった。しかも、そのなかの三人
までが、そういう男を背後の山のなかで見たと証言しているので、さてこそ、警察では躍
起となって、湖水をとりまく山々を調べてまわったが、結局これも徒労に終わった。
おそらく柏屋を出たその男は、その日いちにち、背後の山に身をかくしていたのち、夜
になって、また犬神家へやってきたのだろう。そして、珠世の部屋をおそい、佐清を|昏
《こん》|倒《とう》させて逃げ出したのだが、さて、それから後の消息が、全然消えて
しまっているのである。
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