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八墓村-第二章 疑惑の人(12)
日期:2022-06-05 23:59  点击:317

殺人第二景

 

明け方ちかくなって、私はやっと眠りに落ちたらしい。眼がさめると雨戸のすきから、明るい光がさしこんでいる。枕元においてあった腕時計を見ると、もうかれこれ十時である。私はびっくりしてとび起きた。

都会にいると周囲の騒音があるから、どんなに夜更かしをしてもこんなに遅くまで寝ていることはない。はじめて泊まったその家でこんなに朝寝坊をしてしまって、はたの思わくも恥ずかしく、私はあわてて寝床をあげると雨戸を繰りはじめたが、その音をきいて姉の春代が母屋のほうからやってきた。

「お早うございます。いいんですよ。それはお島にあけさせますから」

「お早うございます。すっかり朝寝坊をしちまって……」

「お疲れだったのでしょう。それにわたしが変な話をしたりして……よくおやすみになれましたか」

「はあ」

「寝られなかったのでしょう。眼が赤いですよ。ほんとにあんな詰まらない話をしなければよかった。でも、お錠口じょうぐちまで駆けつけてきませんでしたね」

昨夜春代は寝るまえに、今夜は長廊下に錠をおろさないでおくから、何か変わったことがあったら、母屋のほうへ駆けつけていらっしゃいといいのこしていったのである。そのことをいっているのだが、相変わらずのろのろとして大儀そうな口のききかたのなかに、誠意がこもっていて、昨夜から見るとまたひとしお打ちとけた態度が身にしみてうれしかった。

私はそれから母屋のほうへ案内されると、姉の給仕で朝の食膳しょくぜんについた。朝寝坊をしたので私ひとりだった。

「お婆ばあさまがたは……」

「伯母さまがたはお年寄りだから、とても朝が早いのですよ。ずっとせんに起きて、あなたの起きるのを待っていらっしゃいます」

「すみません」

「いいえ、いちいちそんなに謝まらなくても……ここはあなたのお家ですから、もっとくつろいでね。どうせわたしたちは田舎者だから行き届きませんけれど、しんぼうして末長くこの家にいてくださいね」

なんとなく心細い思いをしている私の胸に、その言葉は砂にしみいる水のようにしみとおった。私は黙って春代の顔を見ながら頭をさげたが、すると春代はどうしたのか、ポーッと瞼まぶたを染めながら膝に目を落としてしまった。食事中に昨夜の話の地図のことが出るかと心待ちにしていたが、姉はついに切り出さなかった。私のほうでも控えていた。何も急ぐことはないのだ。これからさき、私は長くここにいるのだから。……

食事がおわると姉がいいにくそうに、

「あの……伯母さまがたが待っていらっしゃるのですが……今朝はぜひとも兄に会っていただこうと思って……」

「はあ」

そのことは昨夜も話のあったことなので、私もあらかじめ覚悟していたのだが、姉はさらにいいにくそうに、

「兄にお会いになるときは気をおつけになってね。兄は悪い人ではないのですけれど、なにぶん長いこと床についているもんですから気むずかしくって……それに今日は里村の慎太郎さんが来ているものだから……」

私はなんとなくドキリとした気持ちだった。

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