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八墓村-第五章 鎧よろいの中(9)
日期:2022-06-11 23:59  点击:301

「それよ、それよ。新居先生のおっしゃるには、ちかごろ何かひどく心配するとか、びっくりするとか、気を遣うようなことはなかったかとおっしゃる。わたしには別に心当たりはないが、辰弥、おまえどうじゃな。何かそんなことがあったようかな」

「さあ、ぼくにもいっこう、心当たりはありませんが、久弥兄さんのお葬式以来の、心労がつもりつもって、こんどの御病気になったのではないでしょうか」

「まあ、そういえば、それもそうじゃろが、もっとほかに、何かあったんじゃあるまいか。なあ、小竹さん」

「そうえなあ。そういえば妙なうわごとを言うてたえなあ。トンネルがどうとか、鎧よろいがどうのとか、それからお父さん、お父さんとやら、……辰弥、あれはなんのことじゃろな」

小竹様は茶ちゃ筅せんの手をやめ、じっと私の顔を見る。小梅様も眼をしょぼつかせながら、さぐるように私の顔をながめている。私はわきの下から、さっと熱汗のふき出すのをおぼえた。

小梅様と小竹様が私を招待したのは、姉のうわごとの意味をさぐろうというのであったろう。いやいや、ふたりはすでに、うわごとの意味をさとっているにちがいない。そして、それがかれらを不安におとしいれ、いったい、どこまで私たちが知っているかと、それをさぐりにかかったのであろう。

「ほほほ」

私が無言でひかえていると、小梅様はさりげなく笑って、

「辰弥は辰弥、春代は春代じゃ。春代のうわごとをなんで辰弥が知るもんかいな。なあ、辰弥や。それ、小竹さん、辰弥にはよお茶をあげえな」

「あいあい、わたしとしたことが……はい、辰弥や、粗茶一服召し上がれ」

私はだまってふたりの顔を見くらべる。ふたりの老婆はとぼけた顔で、私と茶ちゃ碗わんをながめている。私の胸にはなんともいえぬ恐ろしさが細かい戦慄となってはいあがってくる。

私は姉の話を思い出していた。双生児の小梅様と小竹様は、二十六年前あの地下道で、やはりこういうとぼけた顔で、父に毒をすすめたのではあるまいか。私にはなにかしら、このしわくちゃのふたりの老婆が、世にも奇怪な、非人情な、妖よう怪かいのように思われてならぬ。

「これ、辰弥や、どうしたもんじゃ。せっかくの小竹様の志じゃ、ぬるうならぬうちにちょうだいせんかい」

私は絶体絶命だった。茶碗をとりあげる手がわなわなふるえて、茶碗のふちで歯がカチカチと鳴った。私は眼をつむり、心の中で神を祈りながら、ぐっとひと息に茶を飲み干した。茶はこのあいだの晚同様、舌を刺すように苦かった。

「ああ、飲んだ、飲んだ。辰弥や、御苦労じゃったえなあ。もうええ、もう部屋へさがっておやすみ」

顔を見合わせてニッタリ笑うふたりの老婆の、口が耳まで裂けていくような錯覚をおぼえながら、私はフラフラ立ち上がった。

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