「ああ、それはぼくも妙に思っているんですが、小梅様と小竹様とはあんなによく似ているんだから、小竹様を殺すつもりで小梅様を殺したのか、あるいは小梅様を殺して小竹様と見誤ったのか、いずれにしても犯人にとっちゃ、そんなことは大して問題じゃなかったんですよ。双児のうちのどちらでもいい。ひとり殺せばよかったのだから」
「なるほど、それで金田一さん、あんたの考えじゃ久野先生は、この洞窟の中にかくれているというんですね」
「そうですよ。だから警部さん、これゃどうしても大々的に、洞窟狩りをする必要がありますよ」
「ふむ、それゃあんたがいうならしてもよいが、なにしろ洞窟といっても広いからな。それに久野先生はほんとうにここにいるかな」
「いますとも、警部さん、久野先生はたしかにここにいるんです。ここよりほかに久野先生のいるところはありませんよ」
その言葉があまり確信にみちていたので、私は思わず顔を見直したくらいである。
さて、それから間もなく私たちは、小梅様の死体をかついで引きあげたが、そこで私が改めて、警部から尋問をうけたことはいうまでもあるまい。
金田一耕助は笑いながら、
「辰弥さん、こんどこそ正直にいってしまいなさいよ。どうせかくしだてしたところで、すぐに尻しりがわれるのだから」
と、そばから忠告してくれる。私もそれにしたがって、できるだけ正直に答えたが、なおかつ二つの事実だけは、どうしても打ち明ける気にはなれなかった。濃茶の尼が殺された晚、慎太郎を見たということと、黄金三枚の秘密である。前者は典子のために、そして、後者は自分のために……。
しかし、金田一耕助はそれに気がついたのかつかないのか、それ以上追及しようとはせず、取り調べはひとまず終わった。そして幸い、その場から拘引されるようなこともなく、ただ当分、村を離れてはならぬと、足止めされただけだった。私のあとで春代も取り調べられたが、これは新居先生の注意もあって、ごく簡単にすんだようだ。
こうして私は縄なわ目めの恥をのがれたようなものの、そのことが私にとって仕合わせだったかどうかはわからぬ。なぜならば、そのために私はいよいよ村人の反感を買い、ひいてはあのような恐ろしい目に会わねばならなかったのだから。
それはさておき、警部の一行がひきあげると、私は急に心細さが身にしみた。いまやこの広い屋敷に生きているのは、小竹様と姉の春代と、私の三人きりになってしまったが、小竹様ときたら、生きているというのは形ばかり、まるで他愛がなくなってしまったのだ。
よく小説などに、双児の一方が死ぬと、あとの一方もすぐあとを追うというようなことが書いてあるが、小竹様にはそんなことはなかった。現にいまでも生きているのだが、生きているというのは形ばかり、小梅様が死んだ瞬間、小竹様の魂も死んでしまったらしく、彼女は赤ん坊よりも他愛がなくなったのだ。
小竹様がそんなふうなところへ、姉は姉で、いよいよ持病を重ねらせて、何一つ相談相手になりそうにない。いや、あまり気の毒で相談をかける気にもなれないのだ。そこで私は、小梅様の亡なき骸がらをかかえて、ひとりやきもきしなければならなかったが、さらに私を心細がらせたのは、これだけの騒ぎがあったにもかかわらず、だれひとり見舞いにも来なければ悔みにも来ぬ。小梅様の死が、村じゅうへ知れわたっていないはずはないのに、どうしてだれもやってこないのか。……私は腹の底が固くなるような不安を覚えたが、さらにその不安をかきたてるのは、奉公人の態度である。
やってこないのは他人ばかりではない。おおぜいいる奉公人さえはかばかしく顔を出さぬ。呼べば来るし、用をいいつければしてくれるが、それがすむと、逃げるように行ってしまう。これはいよいよただごとではないと、私の心は鉛のように重っ苦しくなってきた。
こんなときに美也子がいてくれたらと思うのだが、その美也子も私が洞窟へ入っている間に帰ってしまって、それきり顔を見せなかった。私はなんだか、美也子にまで見放されたような気がして、心細さに耐えかねたが、そこへ遅ればせながら駆けつけてきたのは典子と慎太郎だった。
「やあ、失敬失敬、遅くなってすまなかった。きみひとりでたいへんだったでしょう」
慎太郎はいつになく元気で、白い歯を見せてにこにこしていた。私はいままでこのひとの、こんなにいきいきとした表情を見たことがない。私の知っているこのひとは、いつも眉根にしわを寄せ、半分虚脱したような顔をしているのに、今日はどうしてこんなに元気なのだろうか。慎太郎は如才なく、姉にお悔みをいったり、本ほん卦けがえりをしてしまった小竹様を慰めたりしていた。
「遅くなってすみません。もっと早く来たかったのに、お巡りさんにひきとめられて……」
典子もそういってあやまった。磯川警部の一行は、ここを出るとすぐその足で、典子のところへ行ったらしい。
「典子、ずいぶん、いろんなことを尋ねられたわ」
「典ちゃん、それでなんと答えたの」
「しかたがないから、何もかも正直にお話ししたわ。いけなくって?」
「なあに、いけなかあないさ。でも、そうすると何もかもお兄さんに知れちまったわけだね」
「ええ」
「お兄さん、何かいやあしなかった?」
「ううん、別に……」
「お兄さん、怒ってやあしなかった?」