ごみだらけの豆(2)
日期:2022-11-01 17:26 点击:341
その
日から、
年ちゃんは、はとぽっぽが、なによりもいちばん
大好きになったのであります。
お
母さんは、これまで
箱の
中にはいっている、
豆を
見ますと、
「ほんとうに、もったいない。」といっていられました。
美代子も、その
豆を
見ますと、たとえあの
際だからといって、よくも、こんな
豆を
売ったものだと、
乾物屋の
人たちをうらめしく
思わずにはいられませんでした。
「ねえ、
姉ちゃん、はとぽっぽへゆくのだよ。」と、
年ちゃんは、それからは、
毎日、お
昼ごろになるといいだしました。
「さあ、おねんねおし。そして、
起きたら、つれていってあげましょうね。」と、
姉さんも、お
母さんも、どうかして、だまそうと
思いました。
年ちゃんは、おとなしく
眠ることもありました。また、どうしても、すぐにいってみるといいはったこともありました。また、たとえ
眠ってしまっても、
起きると
忘れずに、
「
姉ちゃん、お
宮へゆくんだよ。」といったのであります。
「ああ、お
母さん。うちに、あの
豆がありましたね。あれを
持っていって、はとぽっぽにやるといいわ。」と、
美代子は
思いついて、いいました。
「ああ、それがいい。」と、お
母さんも、
答えられました。
それから、
毎日のように、
食べられなかった
白豆を
袋の
中にいれては、
年ちゃんは、
姉さんにつれられて、はとぽっぽを
見にいって、その
豆をまいてやりました。
お
宮のはとは、すっかり
年ちゃんになれてしまいました。そして、もう、
年ちゃんのやってくる
時分だと
思うと、お
宮の
屋根の
上からまた
鳥居の
頂から、じっと、いつも
年ちゃんのくる
方をながめていました。そして、
年ちゃんの
姿を
見ると、みんな、
年ちゃんの
身のまわりに
集まってきました。
しまいには、
年ちゃんばかりでありません。
美代子まではとがかわいらしくなってたまらなかったのです。
それから、
二人は、
毎日、お
天気さえよければ、お
宮へまいりました。
「うちに、
豆があるから、いいようなものの、そう
毎日、はとぽっぽへいって、
豆を
買ってやったんでは、たいへんですよ。」
と、お
母さんは、
笑っていわれました。
「ねえ、
年ちゃん、うちの
豆がなくなるまではとぽっぽへゆきましょうね。だけど
豆がなくなったらゆくのをよしましょうね。」
と、
美代子はいいました。
その
後、
二人は、どんなに、
豆がだんだん
少なくなるのを
惜しんだでしょう。また、
豆がなくなってしまったら、はとは、どんなにさびしく
思うでしょう。
年ちゃんと
姉さんが、やってくるだろうと
思って、
待っているのに、とうとう
二人の
姿を
見ることができなかったら、はとは、
悲しむだろうと
思われました。
「まあ、あんなに、たくさんあった
豆が、もう
半分ぐらいになってよ。」と、ある
日、
美代子は、
年ちゃんに
向かっていいました。
そして、いまでは、お
母さんも、
美代子も
乾物屋の
人たちが、
不しんせつであったということを
忘れてしまいました。
あのとき、
買ってきた
豆がいい
豆であったら、こんなに、
楽しく、
年ちゃんを
楽しませなかったろう? また、はとを
喜ばすことができなかったろうと
思いますと、かえって、
食べられなかったのが、しあわせになったのでありました。
姉と
弟は、
今日も、いつものごとく、お
宮の
境内に
近づきますと、はとが
喜んで、ポッポ、ポッポと
鳴いていました。これを
見て、
美代子が、あのごみの
混じった
豆が、どれほど
長いこと、はとや
子供を
喜ばしたろうと
感心したのであります。
――一九二四・六作――