正二くんの時計(2)
日期:2022-11-07 23:44 点击:256
翌日、さっそくその腕時計をして、学校へいきました。
「いいのを君買ったね。」と、いちばんにそれを見つけて、駆け寄ったのは小谷でありました。
「僕のと、同じようだけど、ちっとちがっているね。」と、小谷は、自分の腕時計と見くらべていました。
「ははあ、君のと三分ちがっているが、どっちが正しいんだかな。」と、正二くんが、いいました。
「それは、僕のが正しいんだとも、昨夜ラジオに合わしたのだもの。」と、小谷が、答えました。
「僕も合わしたんだよ。」
二人は、そろって教員室の前へいって、時計を見ると、どちらもちがっていました。それでいずれが正しいのか、わかりませんでした。
正二くんは、学校で撃剣をして、家へ帰りました。見ると、時計が、止まっていました。
「おかしいな。お母さん、僕の時計が止まっています。撃剣をすると止まるもんですか。」
「そんなことはありません。ねじがゆるんだのでしょう。」
「あ、そうか。」
正二くんは、ねじをかけて、外へ遊びに出ました。そして、友だちとボールを投げていたのです。ふと、時計を見ると、また針が止まっていました。
「だめだ、こんな時計は、見かけだけで……。」と、正二くんは、なにかしらん腹立たしくなりました。家へ帰って、お母さんに告げると、
「買ったばかりですから、店へ持っていってなおさせてあげます。」と、おっしゃいました。
正二くんは、見たところ精巧そうな時計が、ちっとも精巧でないので、がっかりしてしまいました。
学校へいって、このことを友だちに話すと、
「僕の時計も、すこし運動すると止まるんだよ。」と、小谷が、いいました。
夕ご飯のときに、その話が出ると、兄さんは、笑って、
「役にも立たぬものを、体裁だけでごまかすなんて、ほんとうにわるいことだな。」と、いわれたのでした。
「なんのための時計だか、わかりませんね。」と、正二が、いいました。
「いままでのような世の中では、しかたがない。見かけはどんなでも、ほんとうに役に立つものを造らなければ、なんの値打ちもないのだ。人間も同じことだぞ。」と、お父さんが、おっしゃいました。
それは、体操の時間でした。先生が、ポケットから、大きな時計を出して、時間を見ていられました。正二は、自分の大きな時計によく似ているなと思って、見ていました。
「先生の時計は、大きいなあ。」と、笑ったものがあります。
先生は、こちらを向いて、
「君たちの時計は、見かけばかりで、すこし運動すると止まるのだろう。形などはどうでもいい。機械は、このほうがずっといいんだ。」と、おっしゃいました。
その明くる日から、正二くんは、お母さんにあずけてあった時計を下げて、平気で学校へいくようになりました。