そういって、
先生は
大きなくわの
葉の
上に一
匹のかいこをのせてくださいました。そのかいこは、
正ちゃんの
家にいるのよりかずっと
元気でした。
正ちゃんは
葉の
上にのせてもらったのをおとさないように、
両手でささえながら、
学校からお
家へかえってきますと、みちをとおる
人々は、なんだろうと、
正ちゃんの
手の
中をのぞきました。
「あの
子は、かいこをたった一
匹持っていくよ。」と、わらった
子どももあります。
かいこをかってから、
正ちゃんは、
毎朝お
母さんにおこされなくてもひとりでおきて、じてん
車にのって、
野村くんのところまでくわの
葉をもらいにいきました。
「あ、また
死んだ。」と、
正ちゃんは、
物置でさけびました。
「お
母さん、あんなくらいところにおくから
死んだのですよ。」
「じゃ、お
座敷へ
持ってきておおきなさい。」と、お
母さんはおっしゃいました。
「ほんとうにお
座敷でいいの? しかし、だめだなあ、一
匹になってしまったもの。」と、
正ちゃんは
力をおとしました。
正ちゃんが
心からかいこをかわいがっていることがわかったので、お
姉さんもいじらしくなって、
「
私、
蚕糸試験所へいっておねがいして、一
匹もらってきてあげるわ。あそこは、かいこや
生糸のことをしらべているお
役所だから、かいこがかってあると
思うわ。
正ちゃんもいっしょにいらっしゃいね。」と、いいました。
二人は
電車にのって、かいこをもらいに
出かけました。
蚕糸試験所の
門のところには、
金ボタンのついた
洋服をきたおじいさんがこしかけていました。お
姉さんは、おじいさんの
前にいって、ていねいに
頭をさげました。
「この
子が
学校からおかいこをもらってきてかっていましたが、みんな
死にまして、いま一
匹だけのこっています。一
匹ではお
友だちがなくてかわいそうだといいますので、もし、どんなのでも一
匹いただけましたらと
思って、おねがいにあがりました。」といって、おたのみいたしました。
金ボタンの
洋服をきて、ぼうしをかぶったおじいさんは、
「なるほどな、むりのない
話だ。一
匹きりではさびしかろう。ここにすこしのあいだ
待っていらっしゃい。」と、いって、お
役所の
中にはいっていきました。
やがて、おじいさんは、
新聞紙にゆるく
大きく
包んだものをだいじそうにもってきました。
そして、にこにこわらいながら、
「これだけいれば、さびしくはなかろうな。」といって、
正ちゃんにわたしました。
正ちゃんはよろこんで、お
姉さんといっしょにあつく、おじいさんにお
礼をいって
門から
出ました。
「お
姉ちゃん、
見ようよ。」と、
正ちゃんは
立ちどまりました。
新聞紙の
口をあけると、びっくりするようなぴちぴちとしたのが五
匹もはいっていました。
「ぼく、こわいよ。お
姉ちゃん、
持っていっておくれよ。」と
正ちゃんは、
手をひっこめました。
「まあ、
正ちゃん、このあいだは、かわいらしいといったじゃないの。」と、お
姉さんはわらいました。
「だって、あんまり
大きくて、
元気がよすぎるんだもの。」
「こういうのでなくちゃ、いいまゆをこしらえないのよ。」
「じゃ、ぼく、こわくない!」
「ええ、だいじにしてかってやりましょうよ。そして、いいまゆをこしらえたら、
学校へ
持っていって、
先生やみなさんにお
見せなさいね。」と、お
姉さんはおっしゃいました。
「そうしたら、ぼく、みんなにうんといばってやるよ。」と、
正ちゃんは
勇んで
歩きだしました。