二百十日(2)
日期:2022-12-03 23:59 点击:278
これを見た正二は、急いで、塀へ上がると、
「こいつめ。」といいながら、さおでまずやんまを払い、つぎにくもを落としました。巣がずたずたに切れて、やんまは、やっと飛んでいくことができたし、くもはちぢこまって下へ落ちました。
「おお、ようした。ようした。ハーモニカを買ってやるぞ。」
正二が、庭へもどってくると、おじいさんは、生き物の命を助けた喜びに、顔をかがやかしていいました。
「おじいさん、こんど僕、いいお点をもらってきたときでいいよ。」
「どうしてか、なぜ今日ではいらないのだ。」
おじいさんは、不思議に思いました。
「どうしても。だって、やんまを助けてやるのは、あたりまえだろう。」
正二、こんなことで、日ごろの言い分を通すのは、あまりうれしくなかったからでした。
「そうか、それは、感心だ。ごほうびをもらわなくても、正しいことは進んでやるのが善い子供なのだ。」
おじいさんは、上機嫌でありました。正二も、おじいさんにそういわれると、ハーモニカを買ってもらったよりもうれしかったのでした。
晩方のことです。
正二が、外へ出ると徳ちゃんが、飛んできました。
「正ちゃん、おもしろいことをしない。」といいました。
「おもしろいことって、どんなことだい。」
「お化けごっこだよ。」
「お化けごっこって、どうするの。」
徳ちゃんは、正二に、いろいろ知恵を与えたのです。
「すてきだね、待っておいで。僕、家へいって絵を描いてくるから。」と、正二は、走り出そうとすると、
「僕、お母さんのエプロンを持ってくるからね。」
徳ちゃんも、家へ向かって駆けていきました。二人は、他の子供らに、知られぬように、とうもろこしの畑であうことにしました。脊高く茂ったとうもろこしの畑には、うまおいが、鳴いています。星晴れのした、青い夜の空を白い雲が走っていました。もうどことなくゆく夏の姿が感じられたのです。
徳ちゃんは、お母さんのエプロンを持って先にいって待っていると、正二は、自分で急ごしらえの般若面を持ってやってきました。
「ああ、ろうそくがなくては、いけないね。」
「そうだ、うりで行燈を造ろうよ。僕、小さいろうそくを持ってくるから。」
正二は、家へ仏壇へ上げるろうそくとマッチを取りにいくと、徳ちゃんは、その間に大きなうりをさがしてきて、中の種子を出して、燈火のつくような穴を明けていました。そこへ正二がもどってまいりました。これで、すっかり用意ができてしまいました。
「だれが、お化けになるの。」
「じゃんけんして、負けたものにしようや。」
二人は、じゃんけんをしました。正二が、負けました。
「正ちゃんが、お化けだよ。」
「おもしろいな。」と、正二は、白いエプロンを着て、自分の造った般若面を被りました。
「どんなだい? 徳ちゃん。」
「おう、すごいよ。ほんとうのお化けみたいだ。」
「ほんとう。」
「頭へ、とうもろこしの毛をつけるといいよ。」
徳ちゃんは、枯れた毛を取ってきて、正二の頭へのせました。それから、うりのちょうちんに、火をつけて、ぶらさげました。濃い緑色の火が、あたりを暗く照らして、正二の白い姿を気味悪く見せました。
「やあ、おっかないな。」
徳ちゃんは、これを見て逃げ出そうとしました。
「徳ちゃん、そんなにおっかない。」
「ぞっとするよ。」
「おもしろいな。だれか呼んでおいでよ。」と、正二は、とうもろこしの葉蔭に隠れました。
往来で、二人の小さな子供が、もう暗くなったのに、まだ遊んでいました。勇ちゃんと光ちゃんです。
「明日は、二百十日だよ。川の堰をはらって、魚を捕るのだね。」
「勇ちゃんも川へ入る?」
「入るさ。」
「僕、兄さんが魚を捕って投るのを、岸にいて、バケツへ入れるのだ。」
「光ちゃんも川へお入りよ。」
「なまずがとれるといいな。こいもいいな。」
「かにがいいよ。」
「かめの子が、いいよ。」
そこへ、徳ちゃんが、やってきました。
「勇ちゃん、畑にお化けが出るよ。」
「お化け? うそだい。」
「うそなもんか、いってごらんよ。」