「まさか、もうそんなに遠くないよな」
それから何時間も経たち、太陽が雲うん海かいを茜あかね色いろに染そめ、そのかなたに沈しずみはじめた時、ロンが嗄かすれ声で言った。
「そろそろまた汽車をチェックしようか」
汽車は雪をかぶった山やま間あいをくねりながら、まだ真下を走っていた。雲の傘かさで覆おおわれた下の世界はずっと暗くなっていた。
ロンはアクセルを踏ふみ込み、また上じょう昇しょうしようとした。その時、エンジンが甲かん高だかい音を出しはじめた。
二人は不安げに顔を見合わせた。
「きっと疲れただけだ。こんなに遠くまで来たのは初めてだし……」ロンが言った。
空が確かく実じつにだんだん暗くなり、車のカンカン音おんがだんだん大きくなっても、二人とも気がつかないふりをした。漆しっ黒こくの中に、星がポツリポツリときらめきはじめた。ワイパーが恨うらめしげにふらふらしはじめたのを無む視ししながら、ハリーはまたセーターを着き込こんだ。
「もう遠くはない」ロンは、ハリーにというより車に向かってそう言った。「もう、そう遠くはないから」ロンは心配そうに計器盤を軽く叩たたいた。
しばらくしてもう一度雲の下に出た時、何か見覚えのある目め印じるしはないかと、二人は暗くら闇やみの中で目を凝こらした。
「あそこだ」ハリーの大声でロンもヘドウィグも跳とび上がった。「真正面だ」
湖の向こう、暗い地ち平へい線せんに浮うかぶ影かげは、崖がけの上に聳そびえ立つホグワーツ城の大小さまざまな尖せん塔とうだ。
しかし、車は震ふるえ、失しっ速そくしだした。
「がんばれ」ロンがハンドルを揺ゆすりながら、なだめるように言った。
「もうすぐだから、がんばれよ――」
エンジンが呻うめいた。ボンネットから蒸じょう気きがいく筋すじもシューシュー噴ふき出している。車が湖のほうに流されていき、ハリーは思わず座ざ席せきの端はしをしっかり握にぎりしめた。